今週は、利き腕を変えてまで寿司職人になった和製ジミヘン、イノマティーのお話

 1986年のドラフト会議で阪神は、享栄高校の近藤真一選手を指名しますが抽選に外れ法政大学の猪俣隆投手を指名します。新潟県出身としては史上初のドラフト1位指名、しかも新潟は山形と並んでプロ野球選手不毛の地、思いつく名前は、関本四十四と今井雄太郎の二人、そのあとの名前が中々浮かびません。猪俣は、そんな新潟から東京は堀越学園への野球留学という高校生エリート。法政大学では左のエースとして法政第三期黄金時代の一翼を担います。切れのあるストレートとナックルが持ち味でしたが、あの阪神暗黒時代には2年連続で防御率「BEST10」入りという、当時探すのに苦労するほど、阪神選手では数少ない偉業(?)を残します。しかしトータル的には常に負け数が先行しており、一年にたまに見せてくれる神業的ピッチングに惑わされ、登板のたびに期待はするのですが必ず裏切られるという典型的パターンの投手でした。未完の大器は未完のまま中日に放出されてしまいます。もっともっと得点力のあるチームにいれば、もう少し勝てた投手だったと思います。

さてこの猪俣という選手、阪神オタクにとっては、かなりの話題性がある色々と突っ込みやすい選手でした。最終成績が43勝63敗というのは、いかにもという成績ですが、ギョロっとした大きな目や誰にも負けない顔の黒さなども印象深く、マウンドで見せる天然キャラは、先週書いた岡田正泰ヤクルト応援団長と同じように、4コマ漫画「泣くな!イノマティー」(中山ラマダ)の主人公にもなってしまいます。

ながい阪神の歴史の中で「17番」と「25番」の両方の背番号を付けたのは彼しかおりませんでした。もうお分かりと思いますが、阪神ファンの中では「17番」と「25番」というのは厄番と言われています。「17番」を付けて活躍した選手が見当たらない事もひとつですが、活躍したといえる選手をあげれば、戦後の名セカンド白坂長栄や代打の切り札桑野議というところでしょうか。源五郎丸、太田、山村、杉山賢人、金村大など、短命の投手が並んでいます。また「25番」は呪われた背番号ともいわれ、事故死した玉井、不祥事を起こした高山、前川、また優勝した年に大怪我でリタイアした山本和や浜中がつけた番号でした。ぜひともこのジンクスを破って、来年こそは新井貴浩と伊藤和雄の活躍を期待するものです。猪俣は中日在籍時、一年間だけでしたが、岩瀬仁紀がつけた13番を前年につけていたのが猪俣隆でした。

また猪俣はコントロールに難があり、ノーコンの代表であった僚友マイク仲田を凌ぐ与四球率はセリーグでもトップクラスでした。この当時、2年遅れて野茂英雄がプロデビューするのですが、彼は毎試合、毎試合、三振の山を築き「ドクターK」という名誉ある称号を獲得します。対照的に猪俣は四球連発を繰り返し、当時のイギリス人気TVコメディー「Mr.ビーン」にあやかり「ミスターB」という不名誉な称号が与えられます。実を申せば、当時の近鉄野茂も四球連発はしょっちゅうで、一試合16与四球という、とんでもない個人記録も持っているのですがファンはあまり覚えてないようです。しかし、イノマティーこと猪俣隆には誰もが成しえなかった、首をかしげたくなる珍記録があったのです。そしてその記録が途絶えたのがこの試合でした。

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まず最初に申しておくことは、この時の阪神は中村監督の就任一年目というシーズンで順調に最下位を突っ走っていたのでした。最下位が阪神、5位がヤクルトという、ほぼ決定している何の緊迫感もないこの試合にも26000人の観客が入っています。さてこの試合で先発した猪俣ですが、いつになくコントロールも良く、四球は3個、三振を10個取り、散発6安打で完投しています。しかし注目は、猪俣のピッチングではなくバッティングの方でした。なにしろ猪俣はルーキーの年の初打席に中日ドラゴンズの郭源治投手から三振にとられたのから始まり、この4年間、全く「安打」というものを1本も打ってませんでした。東京六大学出身ですから四年間しっかり打つ練習もしてきたはずです。猪俣は、この試合前まで77打席連続無安打というセリーグ記録を既に続けておりました。この試合も雨上がりで、グランドはかなりぬかるんでいました。試合早々、阪神は内藤を打ち崩し、続くロックフォードにもおそいかかり、4番岡田が2本続けてのスリーランで試合の行方は早々と決まってしまいます。この一方的な試合展開は、消化試合に輪をかけて興ざめするもので、かなりの観客が球場を後にします。残す楽しみといえば、猪俣の連続記録がどこまで続くかというくらいのものだったのです。観客のほとんどは猪俣の凡打に期待していたのでした。六回表、全く打つ気のない猪俣はロックフォードのインコース高めに来た球が、のけぞったバットの先をかすめ、コロコロころがりながら、ファースト角、セカンド飯田の間を無情にも抜けていきました。ぬかるんでいる上、大量得点差も重なり球を執りにいくという動きも執念も角と飯田にはなかったのです。ついに記録は80打席目に途切れるのですが、この瞬間、拍手も歓声もなく切ないほどのため息が球場全体を覆います。

しかしこの不滅と思われたセリーグ珍記録も2002年、巨人の工藤投手が84打席連続無安打を達成し簡単に更新されてしまいます。ここに唯一誇れる猪俣の記録は消滅してしまいました。ちなみに、阪神選手では誇れる日本記録、連続打席208無三振という藤田平の記録も、オリックスのイチローに当たり前のように抜かれてしまいます。憎き工藤もイチローも愛工大名電出身コンビでした。ただイチローから217打席めに三振を奪ったのが、当時日本ハムにいた下柳剛だったのが救いでした。

先週号は1980年の試合、今週号は1990年の試合でしたが、どちらも神宮球場のヤクルト戦14-3というスコアの試合でした。偶然にも10年周期という事で、もう一試合1970年の神宮球場での試合をプレイバックさせて下さい。この試合、もちろん阪神は14点取っているのですが、イノマティーのふざけたような記録ではなく、この記録を完成するには最高の難度が必要だったのです。この試合は神宮球場の外野の芝生に寝転びながら見ていた記憶があります。それが下の試合です。

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プロ野球の歴史のなかでも、「毎回得点」というのは、たった6試合しかありません。その中でホームの試合のために八回で終わっているのが2試合あり、相手に得点されているのも2試合。そして、九回を毎回得点しながら、相手を完封している試合は、セリーグのこの試合とパリーグの1997年福岡ドームで、福岡ライオンズが西武ライオンズを21-0で破った、たった2試合だけなのです。この毎回得点を完成させるのが、いかに難しい事かお分かりかと思います。

上記の試合前の時点で阪神は5割、巨人、広島、大洋に続いて4位でした。開幕からここまで貧打に泣いていた阪神は、この試合で「突然変異」と翌日の新聞に書かれます。当時の阪神は一番山尾、二番安藤、三番藤田、四番バレンタイン、五番遠井、六番田淵、七番カークランド、八番後藤というオーダーでした。八回表まで毎回得点を重ねた阪神ですが、九回表、先頭のバレンタインが捉えた会心の球はセカンド武上の真正面へとび、ここまでかと思わせます。「アー」「シャー」というため息とも思われるつぶやきがスタンドからもれます。ほとんどの観客は一方的な試合のため、勝負を抜きにしてセリーグ初の毎回得点に気を奪われていたようでした。一死から遠井に代わって一塁に入っていた和田徹が2-2と追い込まれながら、ヤクルト緒方のインコースを強引に引っ張りレフトスタンドに放り込みます。この瞬間ベンチから数人が飛び出し、全員拍手の中で和田は生還します。

阪神タイガースは、この試合を契機に、その後の試合を53勝26敗という驚くべき勝率で、最後は巨人に2ゲーム差まで迫ります。この試合の先発村山実は最後を吉良に任せますが散発3安打とヤクルト打線を抑えます。監督兼任でもあった村山実は「私が投げて、こんなに打ってくれたのはプロ入り初めてです」とコメントします。確かに過去に村山が先発して取った試合の最高得点は10点まででした。

小山-村山時代、村山-バッキー時代の阪神は1点とれば勝てるとまでいわれました。今も0点が並ぶ阪神打線を、解説の福本豊は「たこやきみたいやな」と表現しましたが、バッキーは良く「ガチョウの卵の行進」と、見方チームの貧打に皮肉を込めていやみを言っていました。来る2013年は「貧打阪神」から「ダイナマイト打線復活」という見出しが新聞に躍ることを期待しましょう!


週刊虎バカクラブ
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14 コメント

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