♪R&Bで盛り上がろう!もちろんラインバック&ブリーデンの話です

南海ホークスがあったころ---野球ファンとパ・リーグの文化史 (河出文庫 な 26-1)


「虎バカマガジン」もついに44週目に突入しました。一週間に一回というペースを受け持ったのですが、文章力、発想の乏しさも相成ってこれでもかなり苦労しているのであります。これをトラオさんは、毎日続けているわけで、その強靭な精神と肉体にただただひれ伏すのであります。トラオさんと同じように、毎日、一冊、それも毎夜4000字以上の書評を書き下ろした鉄人がおりました。先号でも取り上げた日本文化研究者で作家であり、編集者でもある松岡正剛という人物であります。2000年から書評サイト「千夜千冊」の執筆に取り掛かり、4年後には1000冊の書評を完成させます。完成後すぐに大病し暫く休むのですが再び連載を開始、ペースは1月で数冊と落ちますが現在も続き、現在は1489夜を迎えています。また週刊ポストでは「百辞百物百景」という連載も評判となっています。

松岡正剛が取り上げた1500冊近くは、古今東西、諸学諸芸、古典ものから、現代小説、外国小説、詩集、写真集、漫画のみならず、宗教、哲学、建築、美術、工学、古典芸能、映画、音楽、経済書までありとあらゆるジャンルの物でした。震災以後は、特に原発やフクシマに関するものが多くなっています。ちなみに阪神ファンの作者を並べると、中上健次(枯木灘)武満徹(音、沈黙と測りあえるほどに)手塚治虫(火の鳥)井上章一(アート・キッチュ・ジャパネスク)柄谷行人(日本精神分析)吉行淳之介(原色の街・驟雨)吉本ばなな(TSUGUMI)江國香織(落下する夕方)などがあげられます。

スポーツ関連の本も何冊かあります。「菊とバット」で著名なロバート・ホワイティング(和を持って日本となす)や二宮清純(天才セッター中田久美の頭脳)という今読むのにタイムリーな本や、残念ながら若くして亡くなった山際淳司(スローカーブをもう一球)の名著が並ぶのですが、ひとつ注目すべきなのが、2003年9月18日に書き下ろした「南海ホークスがあったころ」(永井良和、橋爪紳也共著)という本の書評でした。それは阪神が18年ぶりの優勝が決まった3日後の852番目に選んだ本でした。

「阪神タイガース、ぶっちぎり優勝、おめでとう。まだセリーグだけだけどね。星野がよかったのか、今岡が改心したからか、金本入団のせいか、横浜ベイスターズの山下監督のせいかはよくわからないが、巨人をここまで一蹴し、子供のようにあしらったのは大変にエライ。・・・・・ぼくも赤星のサヨナラヒットの後の六甲おろしに泣いた」という書き出しで始まっているのですが、そのあとに南海ファンの松岡は二つのイチャモンをつけています。一つは、大阪人は何故甲子園が兵庫県にあるのに阪神タイガースを応援するのかという事と、もう一つは御堂筋パレードを最初にやってのけたのは南海ホークスで日本一になってからやれという事でした。「これはいちゃもんであるけれど、ぼくの子供時代の記憶と異なる大阪のフィーバーがよくわからないせいでもある。ただフーリガン風のフィーバーがしたいというのなら釜ヶ崎から始めて欲しいと思うからだ」と。私的には誠に同感なのでありますが、今の若いファンは南海というチーム自体が消滅しているのでピンと来ないと思います。そして、この本の評論が今までと趣きを異にしているのは、松岡正剛自身が南海への愛着をかなり書き込んでいるところです。常々、私ごときも阪神自慢のひとつとしてきた「三宅、吉田、鎌田の黄金の鉄壁内野陣」というフレーズを、松岡さんに南海の「百万ドル内野陣、ファースト飯田、セカンド岡本、サード蔭山、ショート木塚」を語られてしまうと太刀打ち出来ないのであります。阪神の当時のファースト藤本勝巳が下手くそだった訳では、それほどないのですが。

阪神タイガースファンは、何故「私は阪神ファンです」と人前を憚らず強調するのかとよく書かれて来ました。それは阪神グッズを身に付けた子供や若者なら理解出来るのだが、いいオヤジやおばさん迄がと揶揄もされてきました。そしてその極めつけは、おごそかで厳粛な記者会見の中で、自ら阪神ファンを強調した二人の学者がかつておったのです。

1976年度の文化勲章受章者は、作家の井上靖さんら5名が選ばれたのですが、その中の一人にロンドン大学教授、理論経済学の森嶋通夫教授がいらっしゃいました。森嶋教授はこの5年後、平和であるための「新・新軍備計画論」(文芸春秋)を発表し、軍拡だけが国を守る道だろうかという日本の防衛論争に一石を投じ再度注目されます。文化勲章が決まったその日、ロンドン大学の研究室で日本のメディアのインタビューを受けますが、なんとその受け答えに京大出身の意地、阪神ファンの意地をモロに出します。

記者の「日本の指導者たるべき頭脳が流出してしまっては・・・」という質問を受けた彼は「ある種の外交官も必要ですね。それより外国から学者を導入したらどうですか?東大に2,3人、いい学者を呼んだら東大は変わりますよ。今年、ちょうどタイガースがブリーデンとラインバックという二人の外人選手を入れて強くなったように。私は阪神ファンで、だから反巨人、反東大なのかもしれんね」と答えます。何故こんな受け答えをしたかというと・・・。

1976年、阪神タイガースは前々年4位、前年3位と順位をあげ、この年は終盤まで読売と優勝争いを繰り広げます。なにしろ開幕から18試合経過した時点で14勝2敗2引き分けという今では信じられないようなスタートを切っています。何が一番変わったかというと、前の年までのテーラー、アルトマンという他チームからの移籍した外人から、ブリーデンとラインバックという新外人に代わった事でした。この二人の働きが猛虎魂を呼び起こします。この年の大躍進の要因のトップであったといっても過言ではありません。結局、読売に2ゲーム差で優勝を逃がしシーズンを終えますが、27の貯金は阪神ファンにとっては久々の満足のいく年でした。(上段)の試合は森嶋教授が文化勲章を受賞する3週間近く前の試合です。この試合、一回裏に掛布、桑野のタイムリー、三回裏には広島先発北別府からラインバック(20号)、ブリーデン(36号)がホームラン。阪神先発谷村、リリーフ山本和の好投で優勝戦線にとどまった試合でもありました。広島のルーキー北別府にプロ入り初の負けがついたのもこの試合でした。

さて、もう一人の学者はノーベル化学賞を受賞した野依良治(のよりりょうじ)教授でした。「不斉(ふさい)合成の研究」、つまり必要なタイプの化合物だけを人工的に合成する方法を開発した業績が認められたものでした。野依教授は「小学校時代は近所の子供たちと草野球に熱中し、藤村富美男や吉田義男にあこがれた事」を受賞当日のインタビューでは嬉々として語ります。数日後の雑誌のインタビューではなんと「阪神が強ければ、もっと早い時期にいい研究が出来ていた」と答えています。そうなのです、野依教授がノーベル賞をとった年、それは阪神が4年連続再下位となった年、7年間で6回最下位というあの「暗黒の時代」の最後の年だったのです。阪神に希望が見えてきた森嶋教授と希望の全く見えない野依教授の根本的な受け答えの違いがここにありました。

(下段)の試合は、その暗黒の時代を象徴する、野村監督3年目最後の試合です。阪神の先発はルーキー藤田太陽、この試合が初先発でした。「何でこんなのをドラ1で取ったんだ」とぼやきまくった野村監督は最後の試合で藤田太陽に初の先発を告げます。一方の広島の先発は高橋建、四番に金本、六番に新井がスタメンで名前を連ねている時でした。早々とKOされた藤田の後に、谷中、弓長、藪、成本を見せしめのようにマウンドに上げます。シーズンはじめから最後まで覇気のない惨めな試合を繰り返した1年でしたが唯一救われたのが赤星憲広が45年ぶりに盗塁王を取った事でした。

言い換えれば「阪神がもっと強ければノーベル賞をもっと早くとっていた」という野依教授のボヤキの言葉は、2年遅ければ野依さんの言葉も「強い阪神のおかげでノーベル賞がとれました」に変わっていたかもしれません。


週刊虎バカクラブ
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4 コメント

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