第22回●『タイガースへの鎮魂歌(レクイエム)』

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例年ならいろいろ妄想がふくらんで楽しいはずのオフが、今年はちっとも楽しくない。原因は、もちろん中村GMである。本人はよかれと思ってやってるのだろうが、動けば動くほど、しゃべればしゃべるほどファンをイラつかせ、落胆させる。あれはもう一種の才能かもしれない。福留に何億だの、いつまで待つだのという報道を見ていると、本当に阪神ファンであることが恥ずかしくなってくる。

そんなときには基本に帰ろう――というわけで、虎本棚から取り出したのが、玉木正之『タイガースへの鎮魂歌(レクイエム)』(河出文庫)。1982年から87年にかけて発表されたタイガース関連の原稿をまとめた一冊だ。

タイガースのどこが魅力なのか、タイガースファンとはどういう人種なのか、85年の虎フィーバーとは何だったのか……といったことを、スポーツジャーナリズム界の重鎮であり、ベテランの虎バカである著者が軽妙洒脱に論じてみせる。

著者のスタンスは明快だ。それはプロローグの次の一節に集約される。

〈勝てばうれしい、負ければ悔しい。――それは当然のことだ。が、スタジアムの観客席に座り、夜空に高々と白球が舞い上がるとき、また、その球を追った選手が見事なダイビング・キャッチを見せたとき、勝敗などという“日常的些事”は消え失せ、真にスポーツの醍醐味というべき“非日常的快感”が全身を貫く〉

そう、勝ち負けよりも面白さにこそ価値があるのだ。“常勝”なんてつまらぬ看板は読売ジャイアンツに任せておけばよいのである。

そんな価値観をベースに、タイガースの野球、タイガースファンの気質について、縦横無尽、変幻自在に語り尽くす。漫才風の掛け合いがあるかと思えば、「野球政治学」なんて架空の学問分野の論文の体裁を装ったものなど、趣向を凝らし飽きさせない。85年の優勝直前、「本当に優勝するのか?」と疑心暗鬼になるファン心理を活写した「虎狂八景亡者戯(とらきちばっけいもうじゃのたわむれ)」は、落語の演目をもじったもの。祝祭空間としての甲子園の素晴らしさを余すところなく描いた「プロ野球二都物語――甲子園詣」は、読んでるだけで気分が高揚する。

タイガース人気を支える関西文化についても論じつつ、返す刀で巨人ファンの愚かさを憐れむことも忘れない。

〈東京では大のおとなが巨人を応援してるでしょ。それ見ると、言葉は悪いけど、阿呆ちゃうかいなと思いますね。こいつら、まだケツ青いのとちゃうかなあってね〉とは、関西のトラキチ男性O氏(三十歳)の言葉。まだ物事の分別がつかない子供のうちは巨人ファンでも仕方ないが、中学生ぐらいになれば“元服”して阪神ファンになるのが関西では当たり前のことなのだ。ところが、関西にも大人の巨人ファンは少なからず存在する。それについて〈ちょっと神経疑うね。親の教育が悪かったのか。中学のときの担任が悪かったのか……。でも、おとなのクセに、あんな巨人の野球のどこがおもろいのかなあ。まるで、カラヤンの指揮する音楽みたいに、ただ整然と整ってるだけでしょう〉と言うO氏は、実は大阪フィルハーモニーの団員なのだった。

ことほどさように、古くからの虎ファンなら思わずヒザを叩く話が満載。いわばタイガースファンのバイブルとも呼ぶべき名著である。親本は88年、文庫版は91年の発行だから、暗黒時代の始まりの時期。文庫版あとがきで、著者は次のように述べている。

〈あのときの大フィーバーの余韻がすべて跡形もなく消え去り、あのときの興奮があらゆるひとの頭のなかから完全に消滅するまで、タイガースは逼塞するほかないのだ。(略)そして、《後には何も残らなかった》ということがはっきりと確認されたとき、タイガースはつぎの《祭り》に向けての準備に入るに違いない。(略)できれば、この文庫本の出版が、あのときの《祭り》の残滓を決定的に払拭するための一助となることを祈りながら……。そして、つぎの《祭り》の幕開きが近いことを願いながら……〉

まさにその翌年の92年に〈祭り〉が起ころうとは、さすがの著者も予想しなかったに違いない。そして、03年にまた突然の〈祭り〉がやってくるわけだが、92年には新庄がいたし、03年には今岡がいた。やはり祭りには“お祭り男”が必要なのだ。今の阪神で誰がその役を担えるかわからないが、中村GMでないことだけは確かである。


週刊虎バカクラブ
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