第24回●『バースの日記。』

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1988年は、タイガース史上最悪の年であった。前年の87年も最悪の年(優勝の2年後の最下位転落、しかも勝率3割3分1厘という負けっぷり)だったが、88年はただ負けただけでなく悲しい事件が3つも起こっている。

掛布の引退、球団代表だった古谷真吾氏の自殺、そしてあの史上最強の助っ人ランディ・バースのシーズン途中での帰国・解雇だ。

当時からのファンならご承知のとおり、バースが帰国したのは長男ザック(ザクリー)の脳腫瘍とそれに起因する水頭症の治療のためだった。しかし、バースは球団側が求めた再来日期限までに戻らず、球団は治療費に関する契約を履行しなかった。日本のスポーツ紙ではバースがゴネているかのように報道され、そのトラブルをめぐる心労が古谷氏の自殺の要因ともされたが、実際は何が起こっていたのか。

その顛末をバース自ら綴ったのが、『バースの日記。』(集英社文庫)である。翻訳は前回の『この一年 バースが言いたかったこと』の著者・平尾圭吾氏。タイガース退団後の90年4月に出版され、告白本として話題となったが、当時はバースのイメージが壊れるのが嫌で読まなかった。そこで今回、文庫版を入手して読んでみたら、これがなかなか意外な部分も多く興味深い。

内容は、看板どおり“バースの日記”だ。問題の88年から始まり、858687年の順に4年分の日記が抜粋収録されている。

まず意外だったのが、毎日の円ドルレートやタクシー代、食事代などをこまめにつけていること。〈コウモリ傘 350円〉って、バースまめすぎ!

続いて苦笑したのは、88年に就任した村山監督についての記述である。2月23日〈村山監督がマイク・仲田(仲田幸司投手のこと)を2時間走らせた。マイクがハムストリング(膝窩筋)を痛め、歩くこともままならない状態だったのにである。アホな命令だ〉、同25日〈村山監督の命令、投手は毎日100球投げ込むことだと。これもアホな命令だ〉など、ディスりまくり。

チーム通訳の結婚式でのスピーチについても〈村山監督の祝辞はじつに間の抜けたもの〉〈まったく場違いな、バカなスピーチだった。見下げ果てたヤツだ〉とまで書いている。そこまで言わんでも……と思うのだが、その祝辞の内容が〈「私が28歳くらいの全盛時代には、いつも王選手を三振に切って取ったものです。絶対にホームランを打たせませんでした」〉みたいな自慢話ばかりと聞けば、やむをえまいか。

シーズンが始まり負けが込むと〈とにかく村山監督がすべてを台無しにしてしまった〉〈その采配は、日本のプロ野球史上でも、特筆に価する迷監督ぶりだった〉。そして5月1日の選手ミーティングでは〈監督は勝つ意志がない〉との声が出て、〈どうせ監督は来年はクビだろう、ということで意見が一致〉って、選手がそんな話をしてるようじゃ勝てるわけないわなあ。

一方、チームメイトとは仲がよかったようで、〈左のピッチャーの山本も立派な英語をしゃべる。だから一緒によくゴルフをする。池田もいつもオレに話しかけようと思って英語を覚えようとしている。good guyだ〉という。85年の日記では掛布や真弓はメジャーで十分プレーできると評価しており、88年の掛布の処遇については憤りを見せる。

〈掛布は先発を外され引退に追い込まれるようだ。たった32歳で。でも掛布はそれまでミスター・タイガースだった男だ。それを村山は、まったくNo Respectで扱った。掛布を勇気づけるべきで、子供のように扱うべきじゃない〉

これには激しく同意であるし、当時のファンも球団のやり方には疑問を感じていたはずだ。助っ人外国人もファンもわかっていることが、なぜか球団にだけはわからないというのが不思議である。

球団との契約に関するやりとりは、ここでは触れない。本書に書かれているのはあくまでもバース側の見解であり、本当のところはわからないから。ただ、息子が命にかかわる病気となれば、野球どころじゃないのは当然だろうとは思う。

そんな状況下でも、ザックの放射線治療に関して〈痛みはないらしい。ちょっと毛髪が抜けるだけのことである。まったく、ザックの頭から抜けた、あるいはこれから抜ける毛髪の量よりも、私の毛髪のほうがもっと抜けてしまったと思う〉なんて書いてしまうバースがナイスガイであることだけは間違いない。


週刊虎バカクラブ
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