第25回●『コミック ザ・阪神1985』

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 2003年に刊行された虎マンガアンソロジー『虎漫』については以前(メルマガ時代)に書いた。私が編集を担当したもので、阪神ファンの漫画家だけを集めた一冊である。

 しかし、実は同種の企画本が1985年にも出ていたのだ。その名も『コミック ザ・阪神1985』(エム・アイ・エー)。編者は「企画集団ベース」という。どういう人たちなのかまったくわからないが、編集後記には次のような記述がある。
〈●昭和60年9月某日、アスキー第二書籍編集部より、わがベースに緊急TELが入った。「大変な事態になった。タイガースが優勝しそうだー」電話の声は完全にうわずっていた。●翌日より、徹夜のミーティングが続いた。この異常事態に我々はいかに対処すればよいのか――テーマは絞られ、祝優勝の怒濤のオムニバス巨編を出版しようとの結論にようやく到達することができた〉

 いやいや徹夜のミーティングはしてないだろ。つか、だったらなぜ版元がアスキーじゃないのか、などツッコミどころは多々あるが、とりあえず虎バカたちが21年ぶりの優勝に浮かれて作っちゃったのは間違いない。シリーズ名として「時事情報コミックス[1]」と銘打っているあたりにもムリヤリ感が漂う。確かに阪神優勝は大事件ではあったけど、「時事情報」ってことはないだろう([2]が出たのかも疑問)。

 さて、肝心の中身はどうか。執筆陣は、いしいひさいち、あべこうじ、高岡凡太郎、レオナルドいも、風間勇吉、コジロー、かまちよしろう、福山庸治、黒鉄ヒロシ、はた宏、近石雅史、吉森みき男、小池たかしとどおくまんプロの13名。ヤクルトファンのいしいひさいちはともかく、黒鉄ヒロシってバリバリの巨人ファンじゃん! 頼むほうも頼むほうだが、引き受けるほうもどうかしてる。しかも、妙に阪神ファンにおもねったような内容で、節操がないというか何というか。これだから巨人ファンってやつは……。

 その点、吉森みき男の作品は、巨人ファンのサラリーマンが主人公。連日の虎フィーバーを苦々しく思う彼は、野球に興味のない妻との関係にも倦怠感を抱いている。そこに初恋の人との思い出をからめながら、夫婦関係の修復と来年の反攻を誓う……という、ちょっとせつないストーリー。たぶん作者自身も巨人ファンなのだと思うが、こういう描き方なら腹も立たない。

 苦節21年の想いが最も切実に表れているのは、レオナルドいもの作品だ。天王山となった9月7、8日の広島戦の中継が関東地方ではテレビもラジオもなかったため、大阪の友人に何度も電話して試合経過を確認、電話代が高くついたことを嘆く。10月16日には部屋を掃除し風呂に入って身を清め、涙を拭くためのティッシュを用意して“その時”を待つ自身の姿を描く。

 かまちよしろうの作品もなかなかシブい。21年ぶりの優勝が決まったその日、あの阪神OBたちはどうしていたか……というもので、“世紀の落球”の池田純一、当時の監督・金田正泰、“仏のゴロー”こと遠井吾郎、21年前の胴上げ投手・石川緑らが登場。作者自身のことと思われる静岡の少年が、神戸に親戚がいたことから阪神ファンになり、吉田義男にファンレターを書いた思い出話は、ちょっと泣ける。

 文章原稿もいくつか載っていて、なかでも「虎とバット」と題された井家上隆幸の東西文化比較論は興味深い。巨人、西武の管理野球と阪神のお祭り野球との対比から、東西の〈恥〉の感覚の違いを論じる。筆者いわく、〈〈虎症候群〉患者たちは、いま、管理社会の枠からはずれるとはどういうことなのか、その楽しさを〈初体験〉しているのである。〈にわかタイガース〉だけではない、二十年間耐えに耐えてという〈オールド〉も、恥をかいて恥をかいて、それが快感となることを体験している。体験の核となるのは、人と人との交流である、お祭りのたのしさである。まんざら世の中、捨てたものでもない、「ようやるわ」といわれることには「値打ちがある」のである〉。この感じ、かつての(改装前の)甲子園での阪神戦を体験したことのある人なら共感できるものだろう。

 そして何よりグッとくるのは、編集後記の以下の部分。
〈●この緊急出版を読者の方々にお届けすることができた最大の功労者は何といっても、共同印刷タイガースファンクラブだろう。生来の怠け癖ゆえに作業を遅らせかねない我々を叱咤激励、連日、夜が白むまで作業を続けて下さった。●本書製作中に阪神優勝のシーンをメンバー全員が目撃できたことは、生涯最大の幸福だったろう。神宮で優勝を見届けるや、メンバーは編集部に戻り作業を再開した。優勝の美酒は脱稿まで延期となった。異論を唱えるものはむろん皆無だった〉

 まさに“チーム一丸”の出版。拙速な部分も目につくが、その分、勢いと熱さにあふれた、正しい虎バカ本である。


週刊虎バカクラブ
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