第28回●『阪神ファンの変態的快楽』

kairaku

85年とか03年とか、優勝した年に虎バカ本が出るのは当たり前といえば当たり前だ。私が編集した『タイガースファンという生き方』は99年の出版だが、そのときは野村監督就任というトピックがあった。本も商品なので、出す以上はやはり何かしらきっかけというか,理由づけのようなものが必要なのだ。

しかし、何事にも例外はある。今回ご紹介する『阪神ファンの変態的快楽』(岡本さとる/有朋堂)は、話題性も何もない96年秋に出版された(一応自費出版ではないと思う)。96年といえば、球団ワーストの84敗を喫して最下位となった前年途中に休養した中村勝広に代わって監督代行となった藤田平がそのまま監督に就任したシーズン。開幕から順調に黒星を重ね、箸にも棒にもかからず2年連続最下位という、まさに暗黒時代真っ只中に出た本だ。強いていえば、「あまりにもひどすぎ」というのがトピックか。

そんな状況であるからして、中身はボヤきと嘆きに満ちている。

「はじめに」で、いきなりこんなことを言う。

〈ここ数年、「阪神ファンです」と言った時に感じる世間のヨソヨソしさがやりきれないでいる。/そのヨソヨソしさとは、例えば明らかにカツラを被っているとわかっている人の前で、「ハゲ」だとか「薄い」とかの言葉をついつい発してしまった後の気まずい沈黙に似た、何とも言えない、話題の即時変更が求められる独特の嫌な空気なのである。/すなわち、阪神ファンという者は、「かわいそう…」なのである〉

いや、そこまで卑屈にならんでも……。とはいえ、当時を思い出せば、確かに「かわいそう」だったような気もする。

本文は、まず「ファンの語源」から話が始まる。英語のFANの意味を辞書で調べ、〈“ファン”は狂っていなければ“ファン”とは言えない〉と指摘。〈今日本で、本当の意味でのファンの語源を正しく守っているのは、「ジャニーズファン」「宝塚ファン」そして「阪神ファン」の三つである〉という意見には激しく同意するしかない。

サブタイトルに「阪神ファンに生まれいずる悩み…。」とあるように、大阪出身の著者が自分も含めた阪神ファンのトホホな生態を語るのだが、その筆致は軽妙だ(ちなみに著者の本業は時代劇を中心とした脚本家・演出家)。「阪神ファンの一年」と題した章では、開幕戦を迎えて高鳴る気持ちをこんなふうに綴る。

〈何と言っても勝てば確実に“首位”なのだ。/単独首位とはなれずとも3チームが同率で首位なのだ。いや、雨でも降ってヨソの試合が流れたらその可能性だってある。/首位――シュイ――しゅい――SHUI/何と輝きにあふれた素敵な響きだろう〉

なぜローマ字で言うのかはともかく、そうは問屋がおろさないのが阪神である。

〈しかし、我々の声援虚しく、ほとんどと言っていいほど、開幕戦でまず“最下位”となる。/忘れていた――、負ければ確実に最下位になることを〉

さらに開幕戦ならではの事情も指摘。

〈だいたい、ヨソのチームの送りこむピッチャーは、「今年はこいつで決まりや!」という必勝態勢でマウンドに上がるエースピッチャーである。/「とりあえずエースはいてへんけど、こいつにしとこか」系のピッチャーが投げ合って勝てるわけがない〉

〈考えてみれば阪神以外の球団――すなわち巨人、中日、横浜、広島、ヤクルトでエースと呼ばれるピッチャーの条件は、「阪神には負けない」ではないだろうか〉って、どんだけ卑屈になってるのか。ちなみに当時の阪神の開幕投手は、93年・仲田幸司、9495年・湯舟敏郎、96年・藪恵壹、97年・川尻哲郎。対して巨人は9397年・斎藤雅樹、中日は9396年・今中慎二、97年・山本昌である。こりゃまあ確かに勝ち目がない。

昔は阪神にも真のエースがいたのになあ……というわけで、江夏豊の思い出についても語っているのはいいのだが、〈最近の選手に言いたい。「あそこまで肥えてみろ」〉って、それはちょっとどうなのか。

王貞治の14年連続ホームラン王を阻止した田淵を讃えていわく、〈これはとにかく凄いことだ。翌51年、52年は王が再びホームランキングに返り咲いているから、この田淵の阻止がなければ16連続となっていたわけである。/16年ということは生まれた子供が高校生になるまでずっとホームラン王のタイトルを一人の選手が取り続けることになる。それを中学生で止めた田淵は偉い〉って、ほめるポイント、そこっすか!?

とか何とか言いつつも、〈私はごく平均的などこにでもいるくらいの阪神ファンである〉という著者の言うことには共感する部分が多い。世代的に近いこともあり、85年の優勝の日の回想シーンには思わず目頭が熱くなる。03年と05年に優勝してるからまだ冷静に読めるものの、そうでなかったら号泣だ。

そして、阪神ファンは早死にするという説に対しては、絶対にありえないと断言。なぜなら〈長生きしないと何回も阪神タイガースの優勝を見ることができない〉〈それに、今だに阪神の応援を真剣にしている奴はアホだ。/アホは風邪ひかん/風邪は万病の元であるから、阪神ファンは病気にかかりにくいのだ〉と。

まあ、それ以前に「阪神ファン」という不治の病にかかっているのだから、そのへんの病気に負けないぐらいの免疫ができているのかもしれないが。


週刊虎バカクラブ
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