第29回●『本当は強い阪神タイガース』

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「本当は強い」といっても、「阪神は“やればできる子”なんだよ!」とか「今年は能見20勝、榎田15勝、スタンとメッセで30勝、藤浪12勝……おお、100勝超えるじゃん!」とか、そういう非科学的妄想の話ではない。阪神タイガースの戦力をデータの面から徹底的に分析し、「こうすれば(もっと)強くなる」という可能性を示した本だ。

鳥越規央『本当は強い阪神タイガース』(ちくま新書)。著者は、2012年開幕前のスポーツ紙の記事でタイガースを優勝候補筆頭に挙げた統計学者。特に虎バカというわけではなく、セイバーメトリクスによる分析結果に基づいた予想である。その予想というか分析は見事にはずれたわけだが、〈二〇一二年の低迷は、主力の不調や怪我などの、誰もが予想しない事態に起因するところもあると言えよう〉って、いやいや、そういうことが起こるのが野球ってもんでしょう。

それでも〈阪神タイガースの戦力は、セ・リーグの中でも弱いほうではないし、選手の潜在能力が高いことはデータからも示されている。しっかりデータを分析し、合理的な戦い方に徹すれば、強さを存分に発揮することが可能なはずだ〉と主張。えーと、それはつまり「ベンチがアホ」ってことですか?

では、どうすれば本当の強さを発揮できるのか。出塁率や長打力などのデータから著者が導き出した「得点期待値」の最も高いオーダーは次のとおり。

一番・鳥谷、二番・福留、三番・新井良、四番・西岡、五番・新井貴、六番・マートン、七番・大和、八番・藤井、九番・投手。

福留・二番、西岡・四番というのは意外だが、〈出塁率の大きな選手はなるべく早い打順に据え、何度も打席を回すようにする〉という考え方で、計算上はこのオーダーが最も得点を期待できるのだとか(期待値5.464)。が、計算の基になっているのは2012年の数字で、しかも福留、西岡については渡米前最終シーズンの数字というのだから、そもそもの前提に無理がある。マートンにしても去年と今年じゃ別人だし、チーム状況によって個人成績も変わるわけで、正直、机上の空論としか思えない。

打撃に関しては「その打者が仮に一番から九番までを打ったら、一試合平均、何点取れるか」を示す「RC27」という指標もあって、プロ野球全体の歴代1位は王貞治、阪神の歴代1位はバース……って、そんなもん計算せんでもわかるやろ!

一事が万事この調子で、当コラムとしては珍しく新刊を取り上げたのだが、残念ながら「そんなことわかっとるわ!」という話が多かった。

むしろ本書で注目すべきは、巻末に収録された著者と野崎勝義元球団社長との対談だ。野崎氏は1996年に阪神電鉄からタイガースに球団常務として出向。2001年から2004年まで球団社長を務め、星野監督招聘や組織改革に携わった。現在は関西国際大学客員教授という立場らしいが、とにかく舞台裏をぶっちゃけまくりなのである。

まず驚いたのは、96年の藤田平辞任後の監督にメジャーからスパーキー・アンダーソンを招聘しようとしていたということ。しかもほぼ合意に達していたが、スパーキーの奥さんが「わざわざ異国に行って苦労したくない」と反対したことで流れて、急遽吉田監督になったとか。そんな話、初耳だよ!

一方で、球団のぬるま湯体質もズバズバ指摘。

〈とにかく波風を立てない人のほうが重宝される。新しい企画を持っていく者よりも、出てきた企画に難癖をつけてそれを潰す人のほうが、リスクを下げたとして評価される〉

〈たとえばあるスカウトは、一〇年間で一人も選手を推薦していないのに、大きな顔をしてそこそこの給料をもらっていました。自分の推薦した選手が入団してあまり活躍しなかったら、そこには当然責任が発生してしまうと思って、だから誰も推薦しない〉

〈野田浩司と松永浩美のトレードもそうですけど、恐らくその頃の編成担当が元選手でものすごく性格の良い方だったから、やり手の井箟(重慶・オリックス元球団代表)さんにうまく言いくるめられたんでしょう〉って、そこまで言っちゃっていいんスか?

もちろん批判ばかりでなく前向きな提言もあって、〈とにかく若手に関しては試合数を増やさなければいけません〉〈だから独立リーグに選手を預けるのがいいと思うんです〉といった意見には同意。また、ストップウオッチ片手に全国のアマチュア野球選手をチェックしている小関順二氏(本文中では仮名になっているが、どう見ても小関氏)のような人と契約してデータをもらえばいいと提案。実際、小関氏と会ったりもしたらしいが、〈電鉄からの出向者も含めた編成部門の連中は、「そんな素人なんか入れたら、プロの名折れだ」と言って反対した〉という。

全部事実かどうかはわからないし球団側にも言い分はあるだろう。が、「ベンチ(フロント)がアホ」と思っている人ならば、この対談だけでも読む価値はあると思う。


週刊虎バカクラブ
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2 コメント

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One Trackback

  • [...] 二軍戦ではルーキー金田が初先発で初勝利。どんどん経験積んで度胸つけて一軍で働いてしまえ。働き場所ならたくさんあるぞ。 少し前の記事だが、FA制度によって「生え抜き率」がどう変化したか20年前と比較し、「支配下登録生え抜き率」と「出場選手登録生え抜き率」を比較しているのがあった。 阪神生え抜き率80%→58%、プロ野球FA制度20年の〝地殻変動〟(産経WEST) 「年俸総額に占める生え抜き率」なんていう計算もやってみると面白そうだ(面倒だからやらないけど)。資料の数値から見えるポイントは以下。 ・20年前と比べ、生え抜き率がアップしているのは、中日、広島、西武のみで、全体的に低下傾向。 ・生え抜き率(支配下登録)が高い球団は、広島、ロッテ、西武。低い球団は、オリ、楽天、横浜。 ・生え抜き率(出場選手登録)は高い順に、中日、広島、ロッテ、読売、SB、日ハム、西武。低い方から順に、楽天、阪神、横浜、オリックス、ヤクルト。 ということで、生え抜き率の高さ低さと「強さ」とは直接関係するワケではないということはわかる。計画性、計画実現性が重要であり、やむを得ず低くなる(高くなる)という状況ではなかなか強くならないということだと思う。 現在のタイガースの場合は、二軍は生え抜き集団、一軍は生え抜きが少ない。これはこのような統計を見るまでもなく、わかっていることだ。 しかしながら、西岡が持ってきた「底抜けの明るさと要領の良さ」、福留が持ってきた「センスと意識」がチームに良い影響を与えていることは紛れもない事実である。問題は他の選手に大きな影響力を与えられるような中心選手、普通の言葉で言い換えれば「リーダーシップ」を持つ選手が育っていかない「チームの性格」の方にあるように思う。 そういえば新保信長さんの「虎バカ本の世界」最新回にも関連する話があった。新刊本「本当は強い阪神タイガース」の巻末に、著者(統計学者・鳥越規央氏)と野崎勝義元球団社長との対談があるのだそうだ。そこで野崎氏が指摘している問題の一つ、 〈とにかく波風を立てない人のほうが重宝される。新しい企画を持っていく者よりも、出てきた企画に難癖をつけてそれを潰す人のほうが、リスクを下げたとして評価される〉 ここに何かすべてが集約されているような気がしてしまうのだ。 現在のタイガースは「球団トップ」という役職の人ですら「雇われの身」。この価値観が頭の先から足の先まで浸透していれば、そりゃ真のリーダーシップなど育つはずもなく、誰もが責任を回避することで精一杯になる。指導者がそうならば、選手たちだってなおさらそうなる。 かくして、リーダーシップなんて「輸入」すればええやんという情けない文化ができあがってしまったのではなかろうか。 [...]

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