ボクとノムさん

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 ちょっと前のニュースに、ノムさんが故郷の京丹後市(旧網野町)から名誉市民の称号を贈られ涙したというのがあった(読売)


野村克也という人物は、見る角度を変えるとまったく違う形に見える不思議な多面体だ。「人格者」という人もあれば、「人でなし」という人もあれば、「努力家」という人もあれば、「まるで人が変わってしまった」という人もあれば…。私の知る範囲でもいろんな顔を持っている。
 しかし私の原体験に生きる野村克也は、後楽園球場で行われた日本ハムファイターズ対南海ホークス戦、ナイターの外野スタンドに、たくさんの友だちまるまる招待してくれたやさしいおじさんだ。
 1974年秋、東京都下稲城市に東京コメッツという少年軟式野球チームができた(なんと嬉しいことに現存する)。当時近所にノブちゃんという2つ年上のにいちゃんがいて、五目並べを教えてもらったり、自転車で遠出するのについていったり。ノブちゃんがコメッツに体験入部するというのでボクもついていった。同じ小学3年生の仲間もたくさんいて、ボクはまもなく野球少年になった(ノブちゃんはすぐにやめちゃった)。
 その冬だったかその次の冬だったか。練習場所の校庭に突然野村克也が現れた。当時は南海ホークスの捕手兼監督で、たぶんつてのある人が呼んだのだろう。ジャケット姿、中肉中背、ボクには普通のおじさんにしか見えなかった。その後、公民館の大きな会議室に市内の少年野球チームの選手が集められて、その前でお話をしてくれた。「野球ができることに感謝しなさい。道具を大切にしなさい。一生懸命やりなさい」そんな話だったと思うけど、ひょっとしたらその後TVで見たノムさんが混ざっているのかも知れない。とにかく覚えているのは、多くの子どもを前にして、照れくさそうな、恥ずかしそうな、もじもじぼそぼそ喋るおじさんだと思ったこと。なんかイヤイヤ来てくれたのかな…子どものボクの目にはそんな感じに見えた。
 次のシーズン、ボクたちは後楽園球場のレフト席に招待された。他のチームの子もいたように思うから100枚200枚のチケットを出してくれたんじゃないかな。まあ当時のそのカードのことを考えれば、ノムさんが持ち出しするまでもなくタダだったかも知れないけど、当時のボクにはそんなことは関係ない。「チームまるごとプロ野球観戦」をプレゼントしてくれたってことが嬉しかった。みんなで野球を見て、ジュース飲んで、大声出してノムさんを応援した。もっと嬉しかったのは、ノムさんがボクたちのことを覚えていてくれたこと。イヤイヤ来てくれたんじゃなかったんだ。
 校庭でノムさんを囲んだチームの集合写真が、今でも子ども時代のアルバムに貼ってある。仲間たちの真ん中で照れくさそうに微笑む野村克也氏、当時40歳前後。いつのまにか私も「あの時のおじさん」よりトシをとっていた。

コメント

  1. shibuking より:

    toraoさま
    毎朝、ご苦労さまです。
    野村克也氏に関しては色々な方が色々な事を仰るので世間様の評価は別として、
    私のように「南海沿線在住、セはタイガース、パはホークス」という人間にとって
    野村克也はそれこそ中間管理職の鑑のような存在でした。
    でも、ちょっと偉くなりすぎた感じもしますね。

  2. ジジィ より:

    ノムさん、ほんと不思議なお爺様ですね。
    冗談でよく『阪神での監督生活が人生の汚点』みたいな事をおっしゃるけど、「矢野を一人前の捕手に育てた事」や「赤星を発掘した事」et ceteraが03・05年のリーグ制覇に繋がった事は、誰もが認めるところ!
    ちなみに私、35年前人生始めて手に入れたサインボールは、なぜか父親が貰って来た、野村克也選手のものでした。

  3. イアン より:

    めちゃくちゃにいい話を朝からありがとうです。
    少年時代の風景の中に、とても優しい形で野村克也が存在するっていうのは、野球好きとしてはとてつもなくいいですね?、toraoさん。
    最近あちこちで、野村監督は過大評価されすぎてるという論調を見聞きすることが多くなったような気がするのですが、やっぱり、"成し遂げた人間"特有のエピソード満載人生には惹かれますよね。

  4. りさでる より:

    エエ話やないですか。
    もうノムさんはフィールドに帰ってこないのでしょうか?名誉監督なんて受けるべきじゃない。と考えていたワタクシですが。
    帰ってこないとするとあのキャラ?を踏襲できるのはさて岡田さんなのだろうか?
    オリを優勝させれば有資格者NO.1でしょう。

  5. jankuri より:

     いかん、目から汗が・・(泣)。
    ID野球と隠そうとしてもあふれてしまう情念が同居しているところがノムさんの魅力なのかと。家族に対する情の深さは阪神時代は辟易しましたが今は「全部あわせて野村克也なんだ」と納得しています。

  6. 西田辺 より:

    そんな関わりがあったんですね。
    ええ話やな?。
    >不思議な多面体
    厳しくて、優しくて、人一倍照れ屋で、子供っぽくて、礼節にうるさくて、皮肉屋で、情に脆くてetc.
    でもこの多面体の中心は「世界一野球の好きなオッサン」
    これだけは決してブレない。
    野村克也?野球=ゼロと自ら語るだけのことはある。
    私たちは70代でも、ノムさんのように野球を愛せるだろうか?

  7. あかね より:

    ノムさんは、たくさんの一流選手を育ててきましたが、toraoさんのような名ブロガーを育てる力もおありだったですね。
    うーん、いい話だ!(^^)

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