やっぱりストレート

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「やっぱりストレートなんだよ」
今年一年、岡田野球のなんたるかを見て、「The Game」を見て、優勝を見て、幸福な最終戦を見て、4連敗にショックを受け、「博士の愛する数式」の映画を観て本を読んで、「牙?江夏とその時代」を読んで、仰木監督の死とその周辺の記事などを読んで…。
年もいよいよ押し詰まって、ようやく結論が出た。


何の話かというと、4/21東京ドーム、8点差Tリードの7回ウラ二死満塁、打席には500号HRにあと一つと迫った清原。カウント2?3から藤川が投げたフォークボールについてのこと。その翌日、私はなんとも混乱した記事を書いているのだが、だいぶ時間が経ってようやく整理がついた(笑)。
といって、矢野と球児の選択について文句を言っているのではない。あのフォークがあったからこそ、今年のジャイアンツの「分解」が決定的になり、藤川のレベルが格段に上がるきっかけになり、優勝への道筋になっていったのだから。
あの試合の後、藤川は「本当は(最後は)ストレートを投げたかったんですが、そこまでの力がないですから…」と語った。正直な気持ちだと思う。事実その後、自信をつけた藤川と矢野のバッテリーは、直球勝負を楽しむようになって行く。
また、あそこでフォークを投げられる清原という選手、ジャイアンツというチームに問題があると言うことも出来る。
かの昔、阪神と巨人が、村山と長嶋が、江夏と王が、「宿命のライバル」として一騎打ちを繰り広げていた頃と、あの時の状況とではあまりにも違いすぎる。名勝負を生むだけの土壌がなかったということではないか。
数ヶ月後、9/7ナゴヤドーム、9回ウラ一死満塁。マウンドの久保田は、直球を投げ続けた。1球1球に気迫を込めて、いや「殺意」を込めて。本当の勝負をする時、様々な可能性と駆け引きを考えた上で、最後には自分の心と相談して決断をする。選択するボールは、自分のもっとも信頼する、「殺傷能力」の高い球となり、それをわかっている打者とのサシの勝負となる。そんな勝負を見ると、体が熱くなり、涙が出てくる。ああだこうだという理屈など何もなく、直接、脳や神経を刺激する。
岡田監督は、どこかの対談か何かで、もっとわくわくするようなチームを作っていきたいと語っていた。「戦術がない」「打つばっかり」と揶揄される岡田野球だが、確かに自分の理想へのこだわりというものは感じる。それは、自分が少年時代に見ていた、村山や江夏がいたころのタイガースの姿なのだろう。金本や今岡の打席や、JFKの投球にドキドキハラハラする勝負の面白さを感じることができた。昔のタイガースと、仰木監督の采配に影響を受けた岡田監督の中にある、1対1の真剣勝負に対する思い入れの強さを感じる。ドラフトで速球派投手を集めたのも、そんな理由からだろう。
「やっぱりストレートなんだよ」
私の結論。「理想」の勝負の1球は、やっぱりストレートなんだと思う。それを生む土壌さえあれば、生きるか死ぬかの勝負にさえなれば、最高の直球を投げる投手がマウンドにいて、そのライバルが打席に立つことになるのだと思う。
来季は、そんな勝負を何度でも楽しませて欲しいと思う。

コメント

  1. いわほー より:

    今年、球児がブレイクした原点は、あの時、フォークを投げたことだと思います。もちろん、フォークを選択したのは矢野なのですが。
    あの場面、誰もが望む結果は、三振かホームランしかなかった。ショートゴロも、センター前ヒットも、レフトフライもありえなかった。あってはいけなかった。両チームのファンが望む結果は、三振かホームラン。それ以外の結果なら、ノーカウントに等しい。矢野の思惑では、球児のストレートで打ち取れる自信はあっただろう。しかし、そのストレートで三振が取れるか?というと、まだ、矢野には半信半疑だったように思う。どうしても三振がとりたかったからこそ、フォークを選択したのでしょう。
    もし、あの時、ストレートを選択して、結果が三振かホームラン以外で終わっていたら、後に何が残っただろう。球児がストレートを投げ込んで、清原が打ち返した。が、三振でもホームランでもない、ファンからすればノーカウントに近い結果に終わった。もし、そうだとしたら、あの場面、球児は何の変哲もない、ただのセットアッパーで終わるしかなかった。誰にも感動を与えずに。
    しかし、現実にはフォークを選択したことで、藤川も、矢野も、清原も、皆、プライドを傷つけられた。その時、球児がはじけた。
    だから、私は今でも、あの時のフォークの選択は、良かったのではないかと思っています。

  2. 西田辺 より:

    ちょっとでも野球の経験のある人間、ましてや
    プロ野球選手であれば、必ず自分の中に野球の
    原風景を持っているはず。
    3丁目のあのガキ大将を打ち取った時、隣町の
    あの生意気な投手の球を打ち返した時の快感。
    その快感を増幅すべく、より高レベルに挑む。
    どんなスター選手でも、そんな野球小僧の根は
    持ち続けているだろうし、ギリギリの勝負になれば
    なるほど、その原風景戻っていく気がします。
    悲しいかな、数年前まで我がタイガースには
    「ストレートで勝負!」と言える投手が皆無に
    近かった。
    でも、今の虎投陣を見渡せば、岡田監督の目指す
    野球を体現できる投手が増えたと思います。
    来年も楽しみだぁ。

  3. イエロー より:

    いつもながら、toraoさんの描写力はすばらしいですね。場面が目に浮かぶようです。
    去年の終盤から、あの4/21を経てフラッシュ満開の中の記録達成まで、あの芸術的なストレートが完成するまで、長かったのに本当に短かかった気がします。
    来年はどうなるかわかりませんが、球児さんも長く活躍できる中継ぎになってほしいですし、
    2アウトで後ストライク1つでチェンジという場面 で、球場全体がその1球に吸い寄せられ、そしてストレートにバットが空を切り球場全体が緊張から解き放たれる、あの場面をまたみたいです。

  4. BSミツルH より:

    キヨハラは「オレに相応しい球」を(心の中で)要求しました。球児は「状況に相応しい球」を(セオリー通り)投げましたね。球児に対してストレートを投げさせられなかったキヨハラの負けですね。その後、「共同体」の洗礼を受けた球児はストレートでキヨハラを料理しました。もう格下とは思わせないし、言わせない…。
    ストレート勝負は醍醐味ですね。あの一球として記憶の最後に残ります。そうでありながら直球の一面は対重力に関しては最大の変化球であり、逆に変化球も、すべてがタイミングを外すためのものばかりでなく、剃刀シュート、下手・横手投げ投手のスライダーは打者に動物的な敗北感・恐怖感を与えます。
    塁間距離をはじめとして見事にまでピッタリ嵌ったサイズとしての野球(実践)文化ですが、こと投手の完投についてのみ、9イニングスは長過ぎるようになってしまいました。けれども投手の役割分担は全力の野球を見ることができて大歓迎です。今後とも村山・江夏の出現は不可能でも、球児は登場しましたからねvv

  5. torao より:

    大阪「雪中」忘年会、大盛況だったようで良かった!
    to いわほーさま
    おっしゃるとおりだと思います。私もあの時のフォークの選択は良かったと思います。
    そして、それがあったからこそ、こうして直球勝負への憧憬を強くしている次第です。
    to 西田辺さま
    本当に岡田監督が目指している野球というものがどういうものなのかは、まだ理解できていないのですが、1対1の勝負に重きをおいてそうです。私はそれを支持したいです。
    to イエローさま
    絶好調時の球児は、絶対に打たれないと思って見ていましたし、本人もそう思って投げていたでしょう。そしてその絶好調がずーっと続きましたからね。本当に楽しかった!
    to BSミツルHさま
    >球児に対してストレートを投げさせられなかったキヨハラの負けですね。
    はい、そうなんです。あの時はまだ4月でしたから頭がぼんやりしていましたが、そもそも二死満塁ったって、8点差です。どんな勝負をしようとも、「名勝負の土俵」じゃなかったです。
    >打者に動物的な敗北感・恐怖感を与えます。
    なるほど。わかるような気がします。意味として直球となんら変わらないですね。
    野球がはやく見たいなぁ(笑)。

  6. ともやん より:

    4/21翌日は確かに理性と感性が戦ってるのがモロにわかる文章になってますね。
    それでも何とか記事にしたtoraoさんは偉いです。
    何一つ条件が欠けちゃいけない。
    優勝する為に必然に用意された場面だったのかもしれない。
    4/21しかり9/7しかり。
    私はまだ“やっぱり”とは思えないけど、今年そのストレートで何度も目頭が熱くなったのも事実です。

  7. torao より:

    to ともやんさま
    4/21のあの場面はあれで良かった。でもあの場面自体が良くなかった。それが結論です(笑)。
    その結論を得るのに影響した「牙」の読書感想文を近日書こうと思っています。

  8. rookie より:

    「やっぱりストレート」と言うより、ピッチャーが絶体絶命の場面に追い込まれた時は、その投手の一番自信のある球で勝負すべき、ということだと思います。
    たまたま球児や久保田は、そのボールがストレートだった、ということだけで(まあ大抵の投手はそうなんでしょうけど)。
    例えば下柳や渡辺俊介なら、あのような場面でストレートにこだわるのは彼らのスタイルではないですし、メジャー屈指のナックルボーラー、ウェイクフィールドならあの場面でストレートを投げたら逆に「助平根性を出した」と思われることでしょう。
    >藤川と矢野のバッテリーは、直球勝負を楽しむようになって行く
    ここは、私が漠然と思っていたことを繋いでくれた一言でした。
    あの場面、フォークを選択したことは間違いではないと今でも思います。
    ただ、あの時、矢野と球児は楽しくはなかっただろうな、そう思いました。
    そして球児は勝負をより「楽しむ」ために以前よりストレートにこだわるようになったのだと。
    この「楽しむ」と、先日井川が言った「楽しむ」が同じ意味であるような気がしてなりません。

  9. torao より:

    to rookieさま
    >その投手の一番自信のある球で勝負すべき、ということだと思います。
    そのとおりですね。ここで私が言いたかった「やっぱりストレート」というのは、「本当の本当の究極の勝負」のこと。
    つまりそう言う勝負は、例えば下柳対元木とかじゃありえなくて(笑)、藤川対福留であったり、久保田対ウッズであったり、やっぱりその1球が直球である投手に集約されるのではないかということです。
    もちろん偏見ですよ(笑)。でもそれだけ直球で勝負できる投手というのは、「選ばれし者」だということです。
    そうですね。井川の言う「楽しむ」も、野球を楽しくやるなーんて甘ちょろいものを言っているのではなくて、バガボンドのような命のやりとりを楽しむというところに近いのだと思います。