「牙」を読む

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『牙 ?江夏豊とその時代』 著:後藤正治
講談社文庫 ¥695(税別)
週刊現代にて01年1/6号から4/7号にて連載、02年2月単行本化、05年2月文庫本化。


サブタイトルどおり「江夏豊とその時代」を、余すことなく記した大作。江夏と年が近いノンフィクション作家、後藤正治氏が、青春時代の自らの境遇や、当時考えていたことを織り交ぜることで、時代の空気と匂いをリアルに表現している。そして、江夏がもっとも輝いていたほんの短い時間を、そこに居合わせた多くの人の証言をもとに、じっくり丁寧にあぶり出した。それはまさに、時間と空間を超えた「江夏への旅」…。
証言者は、当時のチームメイトはもちろんのこと、時代をともにした名プレーヤーたち、真っ赤な炎を燃やし合ったライバルたち、マスコミが取り上げなくとも、江夏の脳裏には今も確かにいる、そんな名もなき人など、多方面に渡る。その何気なく発した小さな一言に秘められた、作り物でない真実。記者や作家によって言い古されたような陳腐な言葉ではなく、それぞれが大切にしている宝物を慈しむような言葉…。そういう言葉たちによって、その全盛期のピッチングとは裏腹に、人間としてあまりにも不完全であった、江夏豊という魅力ある人間が生き生きと浮かび上がってくる。
私と江夏は18歳差、本当に残念なことだが、タイガース時代の第一全盛期を見ていない。これまでも資料で見ることはあったが、時代という大きな枠と、江夏が見ていた景色、江夏が接していた人々を知ることで、江夏の存在の大きさを理解することができたような気がする。
この物語には現在でもなじみのある人名が多く登場する。だから私より若い世代のタイガースファンにも楽しめる物語だと思う。もちろん、もっとタイガースのことを深く知りたいと思っているのなら、自信を持って薦められる、「中世史」のテキストでもある。
そして優れた歴史書がすべてそうであるように、この本も未来へのヒントを多く示していると思う。プロ野球がもっとも輝いていた頃、そのまばゆい光の本質はなんだったのか。シンプルに野球の美学を再考させてくれた。すべての野球好きにお薦めしたい。
映画「博士の愛した数式」について書いた時、いつもコメントをくれるおかぼんさんがこの本のことを教えてくれた。お礼申し上げたい。
(どうでも良い付録・江夏と岡田とtorao年表)
1946 後藤正治生まれる。
1948 江夏豊生まれる。
1957 岡田彰布生まれる。
1966 torao生まれる。江夏ドラ1で阪神に指名。
1968 江夏401奪三振を記録。
1971 江夏オールスターで9連続三振。
1973 江夏ノーヒットノーラン。
1974 toraoプロ野球に興味を持つ。
1975 torao阪神ファンになり、少年野球を始める。
1976 江夏南海にトレード。岡田早大入学。torao野球教室で南海野村PMに会う。
1978 江夏広島にトレード。
1979 江夏広島で日本一「江夏の21球」。岡田ドラ1で阪神に指名。
1980 岡田新人王。
1981 江夏日本ハムにトレード。
1984 江夏西武にトレード。
1985 江夏、多摩市営球場で引退試合、大リーグ挑戦。torao早大入学。阪神日本一。
1993 江夏逮捕。岡田戦力外通告。
1994 岡田オリックスに移籍。
1995 江夏仮釈放。岡田引退。
(どうでも良い付録2・toraoの一言)
確定拠出年金のことを「401k」と言うらしいが、素晴らしいネーミングだと思う。

コメント

  1. おかぼん より:

    おはようございます。
    自分が阪神ファンになったのは73年からで,実は,私もタイガース時代の江夏の輝きは十分知らないんです。偶然この本をお勧めしたことになってしまいましたが,こんなに的確かつ熱く紹介していただいてとてもうれしいです。
    >プロ野球がもっとも輝いていた頃、そのまばゆい光の本質はなんだったのか。シンプルに野球の美学を再考させてくれた。
    序章では,江夏がタイガースにあった時代,「プロ野球は汗のしたたる『夏の季節』にあった」。終章では,プロ野球の制度改革は必要条件にしか過ぎないこととし,「なによりグラウンドで,プロらしいプレー,息詰まる対決,勝負の妙……がスタンドに波動してきてこそプロ野球である」。この本は,江夏という存在を通してプロ野球の魅力とは何かを改めて教えてくれたと思います。
    たくさんの心に残る言葉,エピソードがありますが,その中で,個人的には,
    ・江夏,田淵の「縦縞のユニフォーム」への思い
    ・尊敬するライバル王との対決,一球にこめた江夏の気持ち
    ・今年(05年)亡くなった遠井吾郎さん,池田純一さんの言葉
    ・85年甲子園に姿を見せた藤村富美男さんが,川藤さんを呼びつけ激励した場面
    などが特に印象に残っています。
    後藤さんの表現を借りていえば,プロ野球は,今はもう確かに「夏の季節」ではない。秋の終わりから冬に向かう時代かもしれない。しかし,そんな中でも,今年だって,球児のストレート勝負や「The Game」の9回以降の攻防など,数は少なくなったかもしれないが,われわれに強く伝わる「波動」は失われずにある。toraoさんの記事がまさにそうですが,ファンとしては,こんなプレー,こんな勝負がもっともっと観たいんだ,ということ繰り返し言っていければ…と思います。
    (追伸) 
    ・後藤さんは仰木さんの取材もされていたようですね。本にまとめられたらぜひ読みたい。
    ・「牙」に先立つ「スカウト」も名著です。ほんと,おすすめですよー。

  2. いわほー より:

    たったいまAMAZONEにて『牙 ?江夏豊とその時代』、『スカウト』を注文しました。到着予定が火曜日から木曜日の間だから、正月休みのお楽しみ。^^
    AMAZONEは1500円から送料が無料になるんですよね。はかった様に二冊併せるとぴったし1500円。なんか得した気分だ。ただ、近所の本屋さんには申し訳ないなあと思いつつも、その便利さに頼ってしまう私‥。
    年商800億。わずか5年で日本の書店で売上げ第三位とな。AMAZONE恐るべし!!
    本題から横道にそれてしまいましたが、「博士の愛した数式」も良かったですよ。今から映画も楽しみです。工作活動は着実に成果を挙げているようだ(笑)。

  3. はみ より:

     新幹線往復の旅の友はこれで決まる、かな。
     私も、タイガース時代の江夏さんは知りません。江夏、というとカープやファイターズ時代に限定されてしまうなあ。でも、なぜか知らないけれど、彼がタイガースのユニフォームを着ていたことが、妙に誇らしいのですよ。数々の(見てないけど)エピソードを、どーだ、と自慢したくなる自分がいるんですよ。そんなOB、そんなにいませんよね…
     ガラっガラの後楽園球場、最前列に座っていると(どこ座っても怒られないから)、目の前を、ブルペンに向かう江夏投手が通ります。ゆったり、悠然と。そして、ヘンなとこに座ってるファン(私らだ)をジロっと一瞥…わーい江夏に睨まれた、と喜ぶ…あれは何歳の夏だったっけな。いまだに「いい記憶」です。
     明日書店に行くべきか、いまこれからネット書店に頼るべきか…悩むな。

  4. redtiger より:

    阪神時代の江夏は問題児とのイメージがやきついています。週刊文春に関係悪化が喧伝されている金田監督とキャンプでいつ会話を交わすか、なんてのがグラビアに面白おかしく取り上げられていました。「豊、調子はどうや?」「まあまあや」というのが有名なフレーズです。この辺のことは本に書いてあるのでは。あのころの野球はとにかくボールが飛ばなかった。江夏の阪神時代のフォームはトレードに出されてリリーフ活路をみいだころのものと違って後ろが小さくて担ぎ投げみたいで中学時代に砲丸をやっていた、というのがなるほどとうなずけるものだった。小さいゆったりとしたフォームで球がピュっとくるからバッターはタイミングが取れない。初速と終速の差がないタイプ。特に低めの真っ直ぐがぐーんと伸びていた。今で言えば、ソフトバンクの和田。でもスピードと球威は問題にならない。コントロールも抜群。やはり阪神時代で記憶にあるのはオールスター9連続三振。あの年は前半戦であまり勝てなかった。そこまでやれるのに何でペナントで打たれてきたのか、と阪神ファンの心中は複雑だった。その江夏よりももっとすごいのが村山だった。球もすごかったけどマウンドでのあの悲壮感。はっきり言ってかっこよかった。星野仙一なんて問題じゃない。星野さんが村山さんの墓に参ったのもうなずける。星野さんは村山さんを超えようとして超えられなかったのでは。村山さんなんて新人でいきなりオープン戦に登板してシャトアウト。ほとんどヒットらしいヒットは打たれなかった。ものが違うのである。

  5. イエロー より:

    あ?また読みたい本が増えてしまった。
    終わったら好きなだけ読むし、野球も見るぞ!と思いつつ先のことを考えるとちょっと恐いかも(;^_^A
    江夏さんは、9連続三振とかすごい投手だったということしか知らないですが、話に聞くイメージだと破天荒というか、寅さんを想像します。

  6. torao より:

    to おかぼんさま
    恥ずかしながら後藤正治さんを知りませんでした。山際さんは読みあさったことがありましたが、久々にこういうものを読みました。ノンフィクションてのも良いもんですね。
    後藤さんは高度成長期に学生時代を送っています。私の学生時代はバブル期でした。時代は違うのですが、あり方はなんとなく似ていて、いろいろと共感するフレーズがありました。次は「スカウト」にかかっていますよ(笑)。
    to いわほーさま
    私はセブンイレブンのやつで頼みました。ほんと、便利ですよね。でも、いつもいく書店に、2点とも普通に売っていて、別に頼まなくても良かったなぁと思いました(笑)。
    to はみさま
    私の知っているタイガースの江夏は、「エースって言われてるのに、ライバル巨人に打たれてばっかりじゃないか!」という、まさに今年の井川の状態でした。小3で野球を始めて、プロ野球にも興味を持って、当時配達してもらっていたスポニチを毎日穴が空くほど読んでいました。読めない漢字は飛ばしながら(笑)。
    いろいろあった人ですが、本当に誇りたくなる選手です。
    to redtigerさま
    redtigerさんはかなり先輩なんですね(笑)。この本には村山さんもたくさん出てきますよ。見たかったなぁ…。
    to イエローさま
    そうかそうか。終わったら、たっぷり読んでちょうだい!面白いよ。

  7. kuku より:

    楽しいクリスマスですか?
    また韓国で kukuです…
    江夏 豊 選手ですか?
    プロ野球の年が幼い韓国としてはあまりにも羨ましい記録(204勝.延長戦自ら決勝ノーヒットノーラン等々 )らを持っている選手ですね
    引退した..(修正)
    この間院タイガース所属の 塩谷和彦 内野手が韓国のプロチームで入団が確定されました
    塩谷和彦 選手の経歴に関してどんな skファンのあげた文があっていろいろな人たちが反応を見せました
    私も記録を利用した陰湿な攻撃だろうかaかそれとも事実だか分かりたくなります
    被害がならなかったら 塩谷和彦 選手について質問をしたいですが…

  8. マル より:

    恥ずかしながら、単行本で買っておきながら
    未だに「つん読」の山に埋もれております・・・。
    タイガース時代はリアルでは記憶がありませんが
    (野球に初めて興味を抱いた時期はtoraoさんと同じです)
    江夏さんに関する本は殆ど貯蔵しております。
    何年か前・・・岐阜長良川球場へマスターズリーグのゲームを観に行った際、
    ほんの1m先で江夏さんの投球練習を観ました。
    まさにかぶりつき状態(笑)
    愚父に言わせれば「現役時代からは見る影もない」とのことでしたが
    ワタシにとっては、そこに江夏さんがいるだけで
    十分幸せな体験でありました。
    正月休みにゆっくり読もうかな。
    3年越しですけれど(^^;

  9. grayghost より:

    最近、時間と空間を超えた「江夏への旅」が多くなりましたね(笑)
    江夏関連の本を読んでると、
    江夏の人柄がなせるのでしょうか…
    ちょっと任侠伝っぽいですよね。
    「これが、言いたい事のありったけ」も読み直そう。

  10. 移民の歌 より:

    ふーん、面白そうですね。買ってみよ。
    最近、別冊宝島で江夏の記事を見ました。その中のコメント「阪神は大嫌いだが
    タイガースは大好きだった」が何だか切なかったですね。
    最初に買った選手名鑑で江夏は南海ホークスの投手でした。背番号は17だったような。
    広島に移ったときのことを後に述懐してこう言っています。
    「広島の選手は明るいし、自分を暖かく迎え入れてくれた」
    そういう環境を作ってあげていれば…。江夏の晩年もタイガースの歴史も変わっていたかも
    しれませんね。

  11. ともやん より:

    toraoさんて岡田監督の後輩!で鳥谷の先輩!
    (すいません。変な所に食い付いてしまって。)
    上手いなあ。
    昔から感想文は得意だったんでしょうか。
    これで「牙」の購買者増えますね。
    実は今日「博士の愛した数式」を買ってしまいました。
    小説を買ったのは何年ぶりだろう…。

  12. ヤマカズファン より:

    昨年の年末ぐらいに、テレビ大阪で「江夏豊 21年目の21球」という番組が放映されていました。
    タイトルから、あの広島時代の日本一のことが中心なんだろうと思って録画したままになっていたのですが、最近見てみたら、「牙」と同趣旨の映像版という感じでした。
    (もちろん、一時間番組に「牙」ほどの深みは求めようがないですが)
    NHKの稲尾や長嶋の番組にも劣らない、良い出来だったと思います。
    これを見て、一つ改めて思ったのが、こういう「熱い時代」の球場の観客の少なさです。
    平日は、どこの球場でもガラガラでしたが、誰もそんなことを気にしていませんでした。
    今は、そういう点でも随分世知辛くなったなあと思います。
    年表は、toraoさんと同じく丙午生まれの私には、往事をありありと目に浮かべながら楽しむことができました。「torao早大入学」をコソーリ入れた気持ちもわかりますよ。(笑)私の中でtoraoさん「早」説と「東」説があって、最近やや「早」説有利かなと思っていたので、答えを言ってもらってすっきりしました。(笑)

  13. torao より:

    to kukuさま
    お久しぶりですね。こどもにプレゼントをあげたりして、まあ、いつもどおりのクリスマスでしたよ。
    塩谷は、どこでも守れる器用さと、長打力が魅力の野手です。でもそれより、口が悪く、首脳陣批判や、契約時のトラブルなどで有名になってしまいました。私も真実かどうかはわかりませんが。また、塩谷が所属するチームが最下位になり続けているという伝説もあります(今年は所属するオリックス・バファローズはパシフィック・リーグ5位でしたが、塩谷は、ずっと二軍にいて、その二軍は最下位でした)。野球の実力より、性格面で問題視されたという部分は否定できないかも知れません。
    韓国リーグで、謙虚に野球に取り組めば、力はあると思うのですが、とにかく性格面が心配です。他のサイトも参考にしてみて下さいね。
    to マルさま
    あら、もったいない(笑)。そりゃ読まないとね。
    ああ、マスターズリーグ行くの忘れてた!調べてみよっと。おお、正月東京ドーム、兆治さんと江夏さん来るじゃないの!行こうかな。
    to grayghostさま
    本人が書いたものなどは確かに「任侠伝っぽい」のですが、この本はね、もう少し「かわいらしい」江夏がいますよ。まだやんちゃ盛りのころですからね。
    to 移民の歌さま
    そりゃもう、その当時のTフロントなんて、ひどいもんですからね。でもそれも含めて歴史ですし、なかなか味わい深いものがあります。
    to ともやんさま
    >昔から感想文は得意だったんでしょうか
    これが実はそうでもなくて(笑)。あらすじをまとめるのは得意だったのですが、自分の思ったことというのを書くのが照れくさくて、キライでした(笑)。今は、あらすじをまとめることより、いかに自分の感じたことを書くか、そればかり考えています(笑)。
    to ヤマカズファンさま
    >「江夏豊 21年目の21球」
    へえ、テレビ大阪…。見たいなぁ…。
    >こういう「熱い時代」の球場の観客の少なさです。
    そうそう、語り継がれる名場面、まだ甲子園の観客はガラガラだったんですよね。今そんな状況下でTの選手がプレーしたらどうなるでしょうね。今の状況をありがたいと思わないとウソですよね。
    いや、だいぶ前にも書いたんですよ(笑)。なんにしてもすっきりしたのなら良かった(笑)。

  14. kane より:

    ご無沙汰してました、kaneです。
    一野球ファンとして当然購入のうえ読みました。
    子供の頃から江夏・田淵のバッテリーは好きでしたから。
    後藤正治氏の「スカウト」も結構面白かったですよ。

  15. torao より:

    to kaneさま
    おお、さすがー!(笑)。
    「スカウト」も読み始めましたよ。面白いですね。