午後6時の試合開始から十数分、まだまだ明るさが残る甲子園球場。9月1日だというのにすっかり夏の彩度が弱まって、秋の白さがぼんやりと大きな球場を包む。センターポールの旗はホームからセンターへ。もう浜風ではなく秋風の季節だ。
レッツゴーレッツゴーとーりたにー…
仕事帰りの客を待つスタンドはまだ空席が見えるが、打席に向かう好調鳥谷への声援は大きい。前の試合、日曜初回、高橋尚から先制ソロHR。その完璧な弾道はまだ記憶に新しく、この二死走者なしという局面でも期待が高まる。
スワローズの先発は館山。ここまで14勝3敗。抑えられているという印象はないが、テンポの良い、どんどん攻める投球で試合のペースを握られてしまう。今まではそんなことが多かった。
どん、どん、どんどんどん…
しゃん、しゃん、しゃんしゃんしゃん…
鳥谷の構えを待って初球、インサイドいっぱいを狙ったカット気味の半速球が甘く入るも、鳥谷やや遅れる。フラーっと上がったファールが三塁アルプスに飛び込む。
打球の行方にはくれぐれもご注意下さい
ゴーゴーレッツゴーとーりたにー…
どんどんどん、トーリタニー
しゃんしゃんしゃん、トーリタニー…
審判から新しい球をもらい、サイン決まって2球目、インロー素晴らしいコースに沈み込むフォーク、鳥谷これを打ちに行くが自分のつまさきへ当たるファール。イタタとよろける。
ピーピーピー
夢乗せてー羽ばたけーよー
鋭いスイング見せてくれ
さあキミがヒーローだー
とーりたにたーかーしー
かっとばせー とーりたにー…
バッターボックスを大きく外す。表情を変えない鳥谷にしては珍しく顔を歪めながら屈伸運動。打席に戻って、つま先を立ててぐりぐりぐりと回し、ゆっくり構えを取る。
かっとーばせーとーりたにー
夢乗せてー…
2ストライク。館山のリズム、サインを見ながらもうノーワインドアップモーションに入っている。相川外直球ボール要求、大きく外れる。2?1。
さあキミがヒーローだー…
休む間もなくあっという間にサインが決まって、決めに行ったフォーク、しかし狙いより高く浮いてストライクゾーン、鳥谷難なく反応し、打球はバックネットへ反射する。大きく口を開けて、リラックス。足場をならしながら、さあ次の球は?しかし今の鳥谷の状態なら、速い球に合わせておけばどうにでもなりそうだ。
鋭いスイング見せてくれ…
館山どんどん投げてくる。ここは一つ直球を外に見せて、次の球への布石。一本調子にならぬようボール球で見逃させるのも大事。カウント2?2。
とーりたにたーかーしー
かっとばせー とーりたにー
ヒッティングマーチの繰り返しも一息。館山ノーワインドアップモーションに入る、プーーーーーっと伸ばしていたトランペットの音が鳴りやみ、ざわめきがすっと落ちて消え、不意に訪れた一瞬の静寂、十分に引き絞った鳥谷のトップ、第6球、永遠のような静寂、外に構えていた相川のミットが真ん中へ、奇跡のような静寂…
カン
いい音。なんていい音。乾いていて、良く響いて、高い空に吸い込まれるような。
その瞬間、その音が何を意味するのか、それを見届けようとした人たちが大きな声をあげる。その視線の先で美しい放物線が、あっという間に右中間スタンド中段に消えていく。
最近ではなかなか味わうことのできない「完全」に美しいホームラン。目だけではなく、耳にも美しいホームラン。その抜けるような響きが、タイガースの心を楽にした。
youtube
http://www.youtube.com/watch?v=HFsBxJutG6A
◇9月1日(火)阪神?ヤクルト16回戦(ヤクルト10勝6敗、18時、甲子園、37073人)
ヤクル 000 001 000―1
阪 神 100 302 00×―6
【ヤクルト】●館山(14勝4敗) 萩原 高木
【阪神】○安藤(8勝8敗) 金村暁 江草 アッチソン 阿部 藤川
[本塁打] 鳥谷14号(神) 金本17号(神)
(割愛)
・金本左への2ランHRお見事
・矢野、桧山の渋いタイムリー「もう1点」が効いた
・新井積極果敢4安打
・安藤丁寧ナイスピッチ
・加点は申し分なかったが、投手の繋ぎは残念の一言
・スライディングキャッチを試みた桜井が途中交代、心配
コメント
鳥谷の「美しい」HR、今回のは「放物線」!!前回の内野手がジャンプしてしまうような低い弾丸ライナーHRは「プロの凄み」があり、今回のは「プロの実力」ですね。 7回のライト前も全盛期の掛布、淡口のような鋭い打球でした。
また、新井の4安打に関しては嬉しいけど、せめて6月ぐらいから復調していれば……と。
投手リレーについては相変わらず「何でも江草&アッチ…」。二人が大事なところで壊れないか心配です。
今シーズンの名物となったドタバタ投手リレーときた。江草までおかしなってしまった。いまどき、安部や金村のお試しをやってるひまはありません。久保田と渡辺なら調子如何にかかわらず、即刻一軍に戻しましょう。二人とも十分休養して、投げたくて仕方がないのではないでしょうか。西村は、昨日なんか、金村のときに出してみればいいのです。そして、打たれたら、やっぱり、もう少し、ファームで修業しろとおとせばいい。それなら、みんな納得します。チームの士気にも影響しません。ドタバタリレーは、勝っても負けてもみっともないし、折角の盛り上がりに水をさすことになる心配もある。
鳥谷のホームランは普通のホームランでは無くて一つの「作品」と言って良いと思う一打でしたね。あれを生で見れたファンが羨ましいです。
打線も上向き調子なのはうれしい限りなのですが、やっぱり結局アッチ・球児を出す羽目になるとはスコア的には完勝なのに起用した投手がヤクルトより多いって・・・。江草はやっぱり「三振か四球」の投手ですね。テンポの良さとグイグイ向かってくる姿勢は良いと思いますがもう少し緩急を旨く使って欲しいなと思います。阿部は一回下に落として渡辺・久保田のどちらかを上げて欲しいですね。個人的には久保田が7回にふてぶてしくマウンドに立っている姿を見てみたい気持ちはありますが・・・。
広大の負傷が軽症であることを祈りますね。最近は鳥谷同様に良い状態な分。
背番号7の去就も気にはなりますが今は打倒ヤクルトしか目に入っていないのが正直な気持ちですね。
これでツバメの裾をつかんだという状況、来週の甲子園では「連立政権早くも血みどろ分裂!?」の見出し躍る修羅場となりそうでわくわくしますな。
球界でもリアルでも、むりな連立内閣というのはうまくいかんものですじゃ。
映像ありがとうございます。
何度見ても鳥谷の打球は美しくて惚れ惚れします!toraoさんが仰るとおり、打球音もほんといい音してますね。
ただその前足に当たった自打球かなり痛そうですね・・・前半戦痛めてた箇所がせっかく治って調子上がってきたのに。今後鳥谷の打撃に関する心配は怪我だけですね。
痛めたといえば桜井も昨日守備時に異変があったようで心配ですね。
8月は鳥谷と桜井の20代コンビが打率.340(鳥谷).338(桜井)と絶好調でチームを引っ張ってくれてたので、この傾向は今季のみならず来季に向けてもとても希望が持てる内容だなと個人的に喜んでました。
なので桜井が今季最後まで完走して来季の成長に繋がるよう、軽症であることを切に願います。。
あと赤星も腰か足か痛みがあって辛そうに見えるのは僕だけでしょうか・・・。
ちょうど鳥谷・桜井・狩野ら26?8がチームの中心に成長してきてる今、そろそろその3人より下の世代に関しても思い切って抜擢してみるという度量が首脳陣にないものか。
赤星休養日に柴田をスタメンで使ってみるとか、スタメンは代える気ないならせめて途中交代で高橋勇に代えるとか。
まあ、どうも鳴尾浜の若手を戦力としてちゃんと見ていない感のある今の首脳陣では期待薄ですかね・・・
ちなみに高橋勇の場合は強肩で外野守備も上手いので、大和のようにまず守備固めから経験させていけば今季の大和レベル(守備固め代走、たまにスタメン)には充分使えるのではと思います。
鳥谷選手のHRの実況中継、ありがとうございます。ファンと選手が一体になって戦うタイガースの臨場感にあふれてます。負けても勝っても、喜んでも泣いても野球は面白い。だって、こんな感動的なHRがみられるんですから。私は関東人なので、関東からタイガースを選んでいった鳥谷選手には格別の思いがあります。クールな所、インタビューがそっけない所、期待したときにあっけなく三振になる所も含めて全部彼らしいな、と思ってます。大成して欲しい!!
鳥谷選手、前半戦とはまるで別人の様ですね。確かにトラオさんが、詳しく描書される程価値の有るHRでした。
私の考える理想の3番バッターというのが有るのですが、全盛期の高橋由伸や福留の様な左打者で、3割20発以上&足もそこそこ。
後半戦の鳥谷選手はバッチリ当てはまっています!後はこの好調がいつまで続くのか楽しみです。
燕の方は、1アウト満塁からリスクの高いスクイズを試みる辺り、相当焦っていると思われます。この勢いでイッキに飲み込んで欲しいですね。
今まで緩やかなカーブで成長曲線を描いてきた鳥谷がここにきて跳ね上がりましたね。
個人的にはこの間のG戦で見せてくれたライトスタンドに突き刺したHRの方が大好きです。
藤川登板…。
「このカードを必ず3タテしたる」という真弓監督の決意表明として処理しときます。
何となく、ヤクルトに覇気が無かったなぁ。直接対決と思えないぐらい。
阪神の方が鼻息荒かったですねぇ。
安藤、最近エースって呼ぶのは、ホメ殺しに思えてきた。
鳥谷、皆勤狙いで、余力を残してるような風情が、関西人の私にはイラっとくるのですが(aikoさん、どうかお許しを)。
桜井、林威助のように、軌道に乗りかけてケガするのは止めてくれっ!!
わざわざ甲子園に来た磯山さやかが、亀山努の横で肩を落としてるのが痛快で、痛快で。
手元の作業をしながらABCラジオでこの場面を聞きました。序盤の両投手の立ち上がり、すっかり秋めいた球場の景色と風、そんなことを楠アナと中田良弘さんが話されていました。
球場の応援の間と同じくお二人の話にも一瞬も間が出来た瞬間、「カーン」と乾いたとてもいい音が大きく放送にのりました。
あまりの球場に響き渡った良い音に、「大きい、大きい」などと打球の行方を話されることもなく、打球がスタンドに入ってしまってから「ホームランです!!」と叫ばれていました。本当に良い音でした。そして素敵な間でした。「こんな音がするんだものスタンドに入るよね、きっと入るよね、これがHRの音なんだろうな」なんて短い時間の中で考えました。その打球を思いました。
いつも拝読させているのですが、あまりに美しい今日の記事にすっかり反応してしまいました。
まる子さん、実は私も移動中の車内でそれを聞いていたんですよ。たまたまTBSでABC制作の中継を流していて。とっても珍しい「音」に感動しました。動画も、できたらその音声をかぶせたいくらいですね(笑)。
その瞬間、思わず「おっ!」と叫んでしまいました。
正に振り抜いたバットの芯で白球を捕らえた破裂音。
ホンマに「ええ音」しました。
球場には、こんないい音に溢れている。
糸を引くような剛球がミットに収まる音。
駿足選手の躍動感溢れるスパイクと土の奏でる音。
ガッツポーズと共に発せられる気合十分の雄叫び。
そして、自然発生的な観客の歓声。
鳴りモノとメガホンの規律ある応援も楽しいけど、
野球の音を終始楽しめる試合があっても良いかな。
今日のtoraoさんの“いい音”昼休みに読んでウルッときてしまいました。
夕方もう一回読んで、まる子さんのコメントにも大きく頷き、またまた感動。
じんわりとありがたく思いました。そんなことがあった日の夜、彼は“いい音”を再び届けてくれましたね。