藤浪7回108球無四死球で今季1勝

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大変気分がよろしい。今季、対読売13勝7敗とし2年連続の勝ち越しを決めた。
なんつったって今季は開幕間もない東京ドームで3つ落としたことから始まった同対戦。あとは2勝1敗(甲子園)、3連勝(ドーム)、2勝1敗(甲子園)、2勝1敗(甲子園)、2勝1敗(ドーム)ときて、このドーム2連勝。阪神の6カード連続勝ち越しは球団史上初だという。
これだけが特別と主張したいわけではないが、この対戦で力を出せなければ武人として意味なしというくらいの価値観が染みこんでいる。それが伝統の重みだ。対読売連続シーズン勝ち越しは2003~05年以来という。あれから20年近く、昨年と今年の内容を考えると、「読売に勝ち越し=優勝の戦力あり」を意味するのだろう。
大変気分がよろしいのだが、優勝する戦力を持ちながらそれを手中にできないのが残念だ。もちろんまだ負けたわけでもなければ、最終的な「勝ち」への条件を大きく損ねたわけでもないから、嘆く必要などないが。

しぶとい攻撃が光った。2回表は輝明、大山と凡退した二死走者なしから糸原が単打。7番8番と打順が下がるところだから、連打の確率は低く普通なら無問題の場面だったが、まさに7番8番が試合を動かした。
功の初めは7番セカンドで先発した木浪。2球で簡単に追い込まれるも、3球目の高め直球をファウル。裏をかいた3球勝負に対応できたことで余裕が出た。抜けフォークを見切り、原点への速球を見切って2-2、いいところから落としたチェンジアップにはギリギリでバットを止めてフルカウント。ここまでの見切りが完璧だったために、初スタメンマスクの喜多は7球目に直球を要求し、これがインローへ引っかけて四球となった。木浪にしてみれば2ストライクから完璧な対応でもぎ取った四球であり、若いバッテリーが心理的に引きずる打席内容にした。功は大きい。

先取点は続く梅野のバットから。こちらも初球の外スラボール球を外国人打者のように決め振りして空振り。同じような完全なボール球は見送ったが、3球目のど真ん中速球には「着払い」でカウント1-2。しかし追い込まれてから「ステルス戦略変更」。速球にピタリとタイミングを合わせ、外角低めへの決め球を狙い通りに右前へ鋭くはじき返し、二走糸原を迎え入れた。連敗から連勝へのスイッチは、梅野から坂本へのスイッチだっただけに、梅野にしてみれば絶対に負けられない試合。先制機での打席は集中力が違っていた。

3回表も二死走者なし2ストライクからロハスが中前打、外すべき外スラがストライクゾーンに残ったのをロハスが見逃さなかった。このあたりは相手バッテリーの若さが出た。続く輝明、初球インハイスライダーを見送り、2球目ど真ん中への速球を理想的なポイントでとらえてバックスクリーン左へドカン。久しぶりに見た輝明らしい豪快な打球だった。これでスコアは3-0、対戦優位だけにすっかり試合を落ち着かせる効果があった。

投手が高木に代わった4回の攻撃もよかった。先頭の糸原が左前打で出るが木浪は左へ凡飛。しかし梅野が落ち着いて四球をとって一死一二塁とすると、打席に入った藤浪が三塁線にバントを転がす。これが投手は捕れないが三塁手も本気で前進しないと打者走者まで生きてしまう、またギャンブルでウォッチすればファウルになる可能性もあったがそれはできないという完璧すぎるバント。
バントの芸術性を評価できる審美眼は、日本の野球人、野球ファン特有のものではないだろうか。この二死二三塁、ただの二死二三塁ではなく、芸術的なバントによって作られた世にも尊い二死二三塁となり、中野の集中力も増した。簡単に追い込まれながらも粘って7球目、サード右へ痛烈な打球。しかしこれを岡本がダイビングで好捕、立ち上がったが俊足中野で焦ったか少しよろけた分だけワンバウンド送球に勢いがなく打者走者が一瞬早くベースを駆け抜けた。タイムリー内野安打で4-0。芸術が引き出した得点だった。
なおも二死一三塁、バッテリーは一走中野の盗塁、梅野との重盗への警戒を強める。その初球、中野がスタート。打者島田は投手左へ強めに転がすバント、三走梅野は打球を処理する投手の視界に入りながら猛然と本塁へ突っ込む、高木バントに追いついて捕球するも予想外のプレーに送球態勢がとれない。意表を突く、二死一三塁からのランエンドセーフティースクイズで決定的な5点目を奪った。さてこれがデザインされたプレーだったのか、島田のアイディアだったのかはできれば秘密にしておいてほしかったが(笑)、島田が考えてやったと語っている。非常に創造的なプレーであり、これもまた藤浪の芸術性が引き出した産物といっていい。

それほど貴重な藤浪のバントだったが、7回1失点、それを無四死球でまとめた投球はもちろんそれ以上に価値がある。
足のある重信などが打席に入ると、バックにセーフティバントあるよと声をかける。やられていやなことは何か。起きたら困ることは何か。そうなったらどうするか。藤浪は起きてから修正するのをほぼあきらめて、起きる前に予防するには何をしたらいいかに意識をシフトしていた。
頭のいい選手なのに、精神的なバランスが狂いはじめると修正がきかない。それをこじれるところまでこじらせて数年がたった。
しかし感情が大きく動くのは、ある意味藤浪の個性であって、それを力づくで押し込めようとしてもうまくいくものでもない。感情は感情で暴れさせておきながら、起きてしまうことを想定して、それによって心を動かさず、あきらめることで雑念を振り切って技術に集中する。
前の試合よりもさらにいい内容だった。2試合続けたことも自信になったろう。うなりをあげるような剛速球と切れのいいカット、この2種だけ、厳しい制球なしでも十分先発が務まる。ここに自信が加わってくれば、回り道した年月を力にできる。
邪念と煩悩を払った108球。藤浪の今季1勝目、素晴らしかった。

コメント

  1. 虎ジジィ より:

    相手が相手だけに私も「大変気分がよろしい」です。
    toraoさんが上機嫌である事が素晴らしい描写の長文コラムで伝わります。

    藤浪の豪速球で抑え、
    打撃陣は大技小技で得点し、
    最後は自慢のブルペン陣でねじ伏せる、
    本当に観ていて気持ちの良いゲームでした。

    藤浪は紆余曲折ありましたが、やっと「あるべき姿」にたどり着いた感じがします。
    なんだかんだ言っても、先発投手で155kmを超えるストレートをバンバン投げ込める投手はそうそう居ません。
    時々抜け球もある この制御不能の大男を梅野が巧みに操り、讀賣打線に丸のソロドームランしか与えない見事なピッチングでした。
    讀賣からすれば、前日「柔の西勇輝」から「剛の藤浪」に面食らったカタチ。
    そして今日は「緩急の才木」にも手こずる事でしょう。

    攻撃も「大山効果」で佐藤輝が覚醒し、
    「中野効果」で島田の脚も生きる、メンバーが揃って来ると色々な相乗効果が生まれるようです。

    私の推測ですがtorao監督が一番やりたかった足絡め野球が昨日は出来たように思います。

    今日も掻き回すべき選手は掻き回し、仕留める選手がしっかり仕留め、なんとか讀賣を3タテして欲しい。
    休養できた湯浅、岩崎も疲労回復していると思うので総力戦を期待します。

  2. yalkeys より:

    toraoさんの藤浪に対する細やかな配慮に満ちたコメント、素晴らしいと思いました。彼の今季初勝利をタイガースファンのすべてが喜んでいます。梅野の先制打、サトテルの2ランも得点の中身が光ります。最後のマウンドに居たのがケリーだったのも我が意を得たりです。今日は才木が本来のピッチングさえ出来れば3タテは十分可能です。

  3. 西田辺 より:

    開幕投手藤浪が好投し、4番佐藤輝の一発が出て、読売に勝つ。
    多くの阪神ファンの顧客満足度を大いに満たしてくれる結果になりました。
    開幕では、勝ちの権利を持ちながら悪夢のような逆転負けで白星を逃がしてから、
    自身の不調や感染、そして一番大きかったのが他の投手の調子が良く、先発ローテに
    入る枠が暫く空きがなかった。
    今回、再昇格からのピッチングは久しぶりに安定感が増したものでした。
    それでも、チームの状態が上がらず勝ちに結びつかない。
    昨日のピッチングを見ていても、下半身と上半身の連動が上手く行ってる感じだし、
    上半身に力が入り過ぎて、下半身が振り回される感じもなくなっていた。
    制球が安定しているのが一番の印象なのですが、8月3試合の登板で20イニング1/3で
    四球が1つ。
    あのコントロールに苦しんでいた藤浪からは考えられない安定感。
    以前なら、待球作戦に会って球数を多く投げさせられてたのですが、今は放っておくと
    ポンポンと追い込まれてしまう。
    こうなると、打つ方も早目に仕掛けて行かざるを得なくなる。
    球威も決め球もある藤浪にすれば、こうなると相手を料理する手札も増えていく。
    いかに投手の安定感が大事か、制球が相手打者にとって厄介かがよく分かりますね。
    藤浪は今季初勝利で、読売戦勝利は2016年4月以来。
    昨日のピッチングが出来れば、毎年2桁勝てるピッチャー。
    先発投手陣を引っ張って行って欲しいですね。

  4. Akira28 より:

    toraoさんの素晴らしい文章に感動、感謝です。
    2年連続、読売に勝ち越しですか。感無量です。
    しかし藤浪凄かった。
    凄すぎて、不気味なくらい落ち着いていた。
    また、非常にリラックスした投球フォームは自然体で、いったい今まで何に悩み苦しんでいたのかを、全く感じさせない。
    最近の速球派のピッチングフォームとは異なり、オーソドックスなフォーム。
    最近の主流は並進運動の力学で、前脚を蹴りながら体重を前に乗せる事で、パワーピッチを生み出しているが、藤浪は前脚は踵から着地しなが、回転で投げていた。
    今思えば、極端だったクロスステップの解消とアウトローへのコントロールを求めようとしてオープンステップに取り組んだことで深い暗闇に入り込み、長い暗夜行路に陥った藤浪だったが、昨日は若干クロス気味のスクエアステップで、肩も開かず無四球ピッチング。
    圧巻のストレートにツーシーム系のカットとスプリット。そこにカーブとスライダー。
    お見事でした。万歳!万歳!
    浜地も凄かった。
    なんなんだ。あのパームボール‼︎
    天晴れ!
    最後はケラー。
    あのマウンドをクローザーとして、どう評価されるだろう。たしかにランナーは出してしまったが、私は、素晴らしいと思った。
    ストレートはかなり威力がある。
    中田に打たれたものの、あのコースは中田のツボゾーン。
    ホームランになってもおかしくないコースだが、中田のバットをへし折った上でのどん詰まりのヒット。
    ケラーのストレートに威力がある証。
    調子を落としているとはいえ岡本も完全にどん詰まりのゲッツーに討ち取った。
    続くウィラーの四球は勿体なかったが、若林は全球ストレートで空振り三振に打ち取った。
    惜しむらくは、あのカーブが簡単に見逃されること。他にツーシーム系かフォークがあれば素晴らしいが、少なくとも岩崎よりはストレートに威力はある。
    勿論、岩崎は岩崎の独特のストレートがある。
    首脳陣はダブルストッパー体制を取るという。
    思わず山本和と中西の頃を思い出した。
    打線も大山が五番に座ることで、明らかに佐藤へのマークが軽くなっている。
    中野、島田も素晴らしい。
    さぁ最後のラストスパートです。
    絶対、ベイは過密日程で疲労して落ちてくる。
    ヤクルトをどこまで追い込み、追い越していけるか。
    昨日の藤浪、浜地、ケラーのピッチングはファンに期待と希望を与えてくれた。

  5. 岩修 より:

    「雑念を振り切り技術に集中」に改めて自分にも染み渡る一言と思った。
    身体も下半身が鍛え込まれ、バランスの良いフォームで投げ込む藤浪晋太郎。余程オフで雑念抜きに野球に取り組んだのでしょう。
    梅ちゃんの先制タイムリー、二死からロハスヒット後サトテル豪快2ラン。
    さらに藤浪、中野、島田による2点は本当芸術的だった。岡本は辛かっただろうなぁと。
    強力投手陣に藤浪が加わり、鮮度抜群ハマチにシン?守護神ケラー。
    投手力はトップのタイガースなのだから今日の才木も自信持って投げ込んで欲しい。
    torao様の晋太郎に捧ぐ見事な長文に朝から涙したのでした。

  6. こうさん より:

    藤浪に尽きる。少しだけだろうか輪郭が丸くなったように見える。けど今が彼にとってのベストな体重なら「見付かった」という証だ。今までは痩けたような頬が負けてる時に悲壮感を漂わせる材料になっていたが昨日は「どっしりとした」佇まいだった。パンパンに膨らんだ太腿が自信の表れ、完全にマウンドで輝いていた。

    一番、今までとの違いを感じたのは一球一球の合間に必ず「大きな深呼吸」をするところだ。両肩が浮かぶほどの深呼吸は「今、投げた球からの切り替え」に思えた。必ず自分が戻る場所、やり方を見付けていた。どんなに良い球を投げても「この一球が大事」と自分に語りかけるような深呼吸は全く打たれるように思えなかった。

    抑えが向いている、ロングの中継ぎが向いている、もう投げる場所は無いんじゃないか?…好き勝手なことを藤浪に対して書いてきたが、彼には誰の足跡も着いていない綺麗なマウンドが似合っているんだな。

    自分の力で先発の座を取り戻した藤浪。昨日の出来なら、あと3…いや4勝はするかもしれない。そんな夢を見させてくれた。

    順位表を見ると、やはり9連敗と8連敗が響いている。響いているからこそ勝つしかない。

    試合中に実況が矢野さんの成績を「2位、3位…」と説明していた。優勝は出来ないが日本シリーズに出ることはできる監督。ベイに投げ勝ち、ヤクルトをチーム力で圧倒する。そんな9月を待っている。

  7. 虎轍 より:

    まずは藤浪に勝ち星を付けれたのが良かったですね。
    開幕から5ヶ月が経とうとしてるのに0勝ではね。
    開幕戦で7点差を逆転負けをしたことから始まった2022年のシーズンで、開幕投手を務めた藤浪が0勝で終わらせたらアカンし、前回も前々回もええピッチングをしてたのに勝てへんかったからね。
    藤浪ナイスピッチング!GJ
    佐藤輝明もええスウィングで、ええホームランやったよ!GJ
    二死からスクイズはええ作戦やし、ナイス采配やと思ったら島田のアイデアやったみたいですね(笑)まぁ何とも言えませんがね(笑)
    今日も気分良く勝って、京セラドームに帰ろう!
    疫病退散!
    頑張ろう日本!

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