最終スコアは「快勝」ながら、途中まではいつか逆転されそうな重苦しい流れだった。
3回一死満塁の好機もマルテの併殺崩れの1点先制にとどまり、その後も毎回のように塁上を賑わせながらタイムリーが出ず、相手先発大道を捉えきれない。
阪神先発伊藤将司は4回までスイスイとノーヒットピッチング。
しかし5回、坂倉に初ヒットを許すと林も左前への巧打で無死一三塁と同点逆転のピンチとなる。続く野間の打球は投手の左を鋭く抜くも、あらかじめ併殺態勢だったショート中野が捕球しベースに走って1アウト、一塁転送かと思いきや体を切って本塁へ送球、梅野が走り込んでくる三走坂倉にタッチして刺殺。想定外の662併殺で無死一三塁から失点なしで二死一塁へと押し返すビッグプレーを完成させた。ゲッツー狙いの守備陣形だというのに挟殺プレーを意識したかのような迷いのある走塁をした坂倉のボーンヘッドや、一塁に投げても野間の俊足では併殺できないため「ダメ元」という部分もあったが、瞬時に判断して的確に行動できたのが素晴らしかった。
しかしその後も重苦しい展開は続き、6回表は二番手森浦から下位打線が一死満塁のチャンスを作るものの、近本、糸原が凡退して残塁を積み重ねる。
広島佐々岡監督も「展開の読み」からか7回に勝ちパターンのコルニエルを投入。しかし、その心情がどこまで投手に伝わっていたかはわからない。一死後、マルテに対して3ボールとカウント不利にする。4球目、マルテは153キロの高目ストレートを豪快にフック、ライナーでスタンドまで届かせ貴重な追加点をもたらした。
金メダル付きのラパンパラが出て、流れは一気に阪神へ……といくほど甘くなかった。
6回こそ上位打線を簡単に三者凡退に切っていた将司だったが、7回には先頭の誠也が三遊間、坂倉に死球をぶつけて無死一二塁と再びピンチとなる。ここが踏ん張りどころと林は力ないセカンドライナー、野間は二ゴロ、併殺はならずで二死一三塁まで持ってきたが、前の打席でヒットを打たれた石原には投げ急いでストライク入らずストレートの四球で二死満塁。とっておきの代打松山が打席に向かう。
ここで、タイムを要求した矢野監督が小走りでマウンドに向かい将司に声をかける。
「お前に任せた。思いっきりいけ」
インタビューで将司はその時の言葉を明かした。
球数は100球目前。苦しいところではあっただろう。しかし、ここでマウンドを他のピッチャーに譲っているような投手になってほしくない。強気に攻めて、ピンチを切り抜けられるエースになってほしい。「任せた」とはつまり「この試合はお前にやる。選択した責任、勝ち負けの責任はオレにあるのだから、何も考えずに思い切っていけ」ということだ。
矢野監督が自らマウンドに行くのは珍しい。伊藤将司という、これから長くタイガースを支えていくひとりの投手にとって、結果がどうであれ、この局面が非常に重要であると認識し、それをバックアップするためにできることを全部やってやろうと判断したのだろう。
もちろん、苦しいチーム状態の中で、この試合は落とせない、シーズンでのポイントになる勝負だという感覚もあったと思う。ただ、まだまだシーズンも前半戦。矢野監督が現役時代に捕手として遭遇した、2005年9月、岡田監督自らがマウンドに来て久保田投手を激励したシーンほど重要な局面ではない。今はまだ、若い選手ひとりひとりを成長させる時期だ。それによりチームを強くしていく、矢野監督の意識はそちらが強いと思う。
矢野監督のひと声に、表情を明るくした将司。2球変化球を低いボールにしたが、平常心を失うことなく3球目もカットボールを低目に投げ込み、松山を力ない二ゴロに退けた。この一打席が将司をどこまで成長させたのか。これからの投球が楽しみだ。
この場面が境となり、8回表には3本のタイムリーを含む5本の長短打が飛び出し、重苦しかった試合は一気に展開を変えた。
輝明にもいい当たりのヒットが3本出た。将司の後は、友貴哉、及川で完封リレーを完成させた。
このチームは負けが込んでも、苦しんでも、成長中のチームであるということが最大の強みだ。矢野監督はそこを十分理解していると感じることができた試合だった。
コメント
toraoさん本来の軽快かつ的確なコラムに、沈んでいた心が踊ります。
序盤チャンスに一本が出ずイライラしたり、
中盤ピンチがありハラハラしたり、
終盤は打線が繋がりスッキリしたり、
ゲームとしては旨味の詰まった一戦でした。
伊藤将の好投に尽きるのですが、そんな中でもいろんなドラマがありました。
「1―0の5回無死一、三塁。野間の二遊間へのゴロを処理した中野が二塁ベースを踏んでから本塁へ送球した変則ゲッツーの超美技」が伊藤将を救い、
「7回二死満塁で打者は虎キラー松山の場面で矢野監督が自らマウンドへ行き『おまえに任せた 思いっきりいけ』(さすがに「めちゃくちゃしたれ」じゃなかったw)のヒトコト」が伊藤将を奮い立たせた。
中野の「野球脳」が流れを相手に渡さず大きな分岐点になったのは間違いないです。
打線は好調を維持しているマルテを中心に、積極的休養をさせたテル、サンズ、中野がしっかり結果を出したのは収穫、やはりガチガチ固定より多少休養をさせながら選手間で化学反応を起こさせる事も大切ですね。
大山や梅野の疲れが少し気がかりです。この辺りも積極的休養をお願いしたい。
お早うございます!
toraoさんの臨場感溢れる文章にまたまた感動です!
ナイターは多くの方々は仕事が終わり帰宅についてから観る事が多いと思います。だから序盤に先発が炎上すれば今のタイガースでは苦しい。
だから昨日のデーゲーム。二週続けて好投しながら負けていた伊藤将がまた負ければズルズルと後退しそうな大事な試合でした。
結果はtoraoさんの書かれた通り。
5回の中野のビッグプレーは観ていて
あ、同点と思った瞬間だった。
同期の中野も、サトテルも目付きが何時もより鋭い。最後のピンチでマウンドに向かった矢野監督に、抑えてベンチに下がる伊藤将に派手なジェスチャーで迎えた矢野監督と静かに声をかける大山。読売もヤクルトも強いけど、
内も強いんだと再確認。
雨なのに皆平常心で戦い、特に最終回三凡に抑えた及川は伊藤将同様、横浜高校出身。東海関東豪雨で期するものがあったかもしれません。
やはり、今年のタイガースは目が離せ無いと思った1日でした。
テレビであの打球を見た時、二塁一塁の併殺だけど同点かぁ、と思いました。
しかし中野の動きは、そんな考えをはるかに超えていました。
確かに、打った瞬間三塁ランナー坂倉から見るとピッチャーライナーにも見える
打球ですから、一瞬三塁へ戻りかけてるんですよね。
それをあの捕球から二塁ベースを踏むまでに判断し、実行するのはかなりハードルの
高いプレー。
野手は自分の所に打球が来た時にどうするというシミュレーションを、幾つも想定して
いますが最も可能性の低いプレーだったでしょうね。
年に一度有るか無いかの場面を想定して練習をしてきた成果だと思います。
矢野監督がマウンドに行くというのも珍しいですね、と言うか就任後初ですね。
監督がマウンドで一言発した瞬間、伊藤将が笑顔になっていたので、こちらも思わず
ホッとしてしまいましたが、ホントのこの投手は見た目とは違ってメンタルが強いですね。
余りどんな場面でも、苦しさが顔に出るというのを見た事がありません。
相手からしたらやりにくい投手ですよね。
1日スタメンを外れた佐藤輝が3安打猛打賞。
その前までブリブリ振っていたコーナーもバットが止まっていたし、体と脳が休まった
のかも知れません。
良くも悪くも、今のタイガースはルーキーや若い選手の状態に大きく左右されてしまう。
であるなら、出来るだけ3人を良い状態で出せる環境を作ってあげたい。
マルテが坂本からかけてもらってたメダルは何だと思いながら、今朝ダルビッシュの試合
見てたら、パドレスが元祖なのね、あれ。
チームとして、一体となるアイデアを選手がドンドン出して盛り上げてくれます。
プレーも大事だけど、人間集団のやる事ですからメンタルの部分は無視できない。
まだまだ、このチームは強くなれる。
もう一度巨人を引き離そう。
toraoさんの見事な解説に感服致しました。
読売の監督のように、選手を取っ替え引っ換えせず、優勝を狙う為に敢えて若手の成長を重要視する矢野監督を見事に称えておられます。
やはり今年のタイガースの進むべき方向に向かって矢野監督はブレていませんね。
昨日の勝ち方でまた盛り上がっていくと確信しました。
「最下位の広島相手に苦しんで…」となりそうだが0.5ゲーム差でも読売の上にいてゴールすれば勝ちなのだ。読売だろうが広島だろうが丁寧に平常心で勝っていこう。
数日前のコメントに「ルーキーのメンタルの強さ」を書いたが…北條や木浪が、昨日の中野の動きが出来たかどうか、もちろん技術的なものはあるだろうが。打てない打席が続いた中野だが守備への悪循環は最低限に抑えた。中野って守備でミスしてもニヤけてるんだよな。すげぇな。次に引き摺ったら自分が損するって解ってるんだな。
昨日の矢野監督を観て改めて思った。矢野タイガースの連勝は偶然の産物なのだろう。1カード2勝1敗で進んで行くのが矢野野球なんだろうな。たまに連勝するのは篠沢教授、矢野監督は一年中「はらたいら野球」なのだ。はらたいらさんは番組後半で必ず盛り上げる為に間違えられないというプレッシャーに勝ちきってきた。トラオさんが言う「後半捲り」…まさに、はらたいら野球。来季は5・6月の敗けを少なくしたいね。
さあ、勝ち越すぞ。
こんなに読売の敗けを願う夜は初めてだ。頑張れベイスターズ‼️
熱海で発生した土石流で犠牲になられた方のご冥福をお祈りいたします。
何度見ても壮絶な映像でした。
これ以上被害が拡大しないことを願うばかりです。
それはそれとし、昨日のNHKの野球中継、なかなか放送が始まらず、始まったと思ったらゲームの重要な場面でことごとく中断して土石流のニュースが挟まるもんですから、なかなか試合に入り込めませんでした。ただ、NHKとして逆に合間に試合中継を挟んでもらえたんだと思えば感謝ですね。(DAZNはカープのホームゲームのみ扱えないもんですから)
それにしても今年のルーキーたちはどれだけ肝が据わってるんだろうと感心されられるばかり。
今のチームがこのルーキー達にひっぱられている部分が大きいのは、昨日の試合によく表れてました。
今日勝ってカード勝ち越し願いたい。
ところでDeNAはどうしたもんか。
せっかくこの前、力水つけてやったのに巨人に勝ち星なしの8敗。
巨人の貯金はDeNAとヤクルトがそっくり貢いでいるんですから、この両チームには頑張ってもらいたい。
例の中野のプレーはやってくれましたね。
いつでしたっけ。横浜戦で青柳の時だったかな。センターへ抜けそうなライナーを、見事なポジションでアウトにしたような。
センスがありますね。
ただ、プロならばアウトに出来るだろ、と思うことがたまにあります。
ランナー二塁で、右方向の内野ゴロ。ランナー三塁での、前進守備でない内野ゴロとか。
とにかく、素晴らしいルーキーズとスカウトたち。
コメントしたい事を全てtorao様が書かれてしまったので、1つだけ。
伊藤将司、中野拓夢、佐藤輝明が入団してきてくれてありがとう!
マルテもありがとう!GJ
矢野監督がマウンドに行って、大山をはじめ、内野陣に笑顔が戻り、流れがタイガースに向きましたね。
今日も平常心で流れを掴んだまま勝ち越そう!
疫病退散!
頑張ろう日本!
奮闘努力のルーキーズ
伊藤将司は、ルーキーとは思えぬ落ち着いた踏ん張りで7回を投げ切ってくれた。
中野拓夢は、とっさの状況判断とキレある動きでチームのピンチを救ってくれた。
佐藤輝明は、一日の休養を得て見事復活の猛打賞で打撃陣を引っ張ってくれた。
ルーキーはつらいよ。
つらいけど、今日も元気で虎を引っ張っておくれ。
手強い相手を少しでも早くマウンドから降ろしてしまおう。